こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
今日は、「歯石除去」についてのお話。
今日は歯石除去の方法や歯石除去に麻酔は必要なのか、高齢だけど大丈夫なのか、などを解説します。
麻酔下でおこなう歯石除去とは
歯周病の予防として「歯磨き」はとっても大事。
症状が軽度の場合はお家での歯磨きで維持できると思いますが、歯石になってしまうと歯磨きでは落としきれません。
その場合は「歯石除去(スケーリング)」が必要になります。
麻酔下での歯石除去ではどのようなことをおこなうのでしょうか。
順番に見ていきましょう。
- 歯科用鉗子で大まかに歯石を除去
- 超音波スケーラーで歯の表面・裏側、歯の間の細かい歯石を除去
- グラつく歯を抜く
- キュレッタージ:歯周ポケットに面する歯肉を搔爬
- ルートプレーニング:歯周ポケット内の歯石を除去し、歯をなめらかにする
- ポリッシング:歯の表面を研磨
④、⑤の歯周ポケット内の清掃というところが一番のポイント。
歯の表面をキレイにするだけでは意味がないんですね。
この方法をみると、麻酔は絶対に必要だということがわかると思います。
無麻酔で歯石除去ができるのか?
たまに無麻酔で歯石除去を行っている病院を見かけますが、絶対にオススメしません。
治療にならないだけでなく、危険なことばかり。
無麻酔ということは、犬が意識のある状態。
病院だからといっておとなしく口を開けて歯を触らせてくれる子はほとんどいないですよね。
スケーラーという先端が尖った器具で歯石を除去するのですが、嫌がったり動いたりする動物の口に入れると、犬も人間もケガをしかねません。
無理に口や頭を押さえつけて歯石を取ることで、歯や歯の周囲の組織を傷つける可能性があるので大変危険です。
さらに、痛い思いをすることで、犬に恐怖心を与えてしまい、いざ家で歯磨きをしようと思ってもなかなかさせてくれないかもしれません。
犬の歯周病の原因とは?で説明したように、歯周病の原因細菌は歯周ポケットに多いので、目に見える歯石だけを除去しても効果はありません。
また、歯石や歯垢が溜まりやすいのは奥歯(とくに第4前臼歯)。
いくらおとなしい犬でも、無麻酔で奥歯まで処置をするのは困難。
もう1つの理由として、麻酔をかけて器具(超音波スケーラーなど)を使って歯石除去・研磨をしないと、歯の表面がザラザラになってしまい、余計に歯垢が付きやすくなるということがあげられます。
やはり、無麻酔で歯石除去をおこなうのはオススメできません。
高齢犬の麻酔下歯石除去はリスクが高いのか
人の場合、歯の処置をするときに全身麻酔をすることはよほどの場合を除いてはないですよね。
そのせいか犬猫の場合も歯石除去のために全身麻酔をするというと、嫌がる飼い主さんが多いのです。
全身麻酔ってちょっと怖いな、うちの子高齢だけど大丈夫かなって思われるのかもしれません。
麻酔をかけた時に、最悪の事態が起こってしまう可能性があるのは事実です。
犬猫における麻酔関連死は、犬で0.1〜0.2%、猫では0.2〜0.3%と言われます。
しかしこれはもともと全身状態に問題があるハイリスクな場合も含んでいるので、全身状態に問題のない健康な犬猫であれば0.05%以下になります。
いずれにしても全身麻酔が命に関わるリスクを持っていることは事実です。
それでも歯石除去をする時には、よほどのことがない限り麻酔をかけることを前提に話をします。
つまり、麻酔のデメリットを上回る、何かしらのメリットがあるんですよね。
先ほども説明したように、基本的に動物の場合、人のように診察台の上でじっとしていられないので、麻酔をかけずに歯石除去をするというのは、暴れたり怪我をしたり(犬も人も)、ある意味麻酔のリスクよりも危険を伴うものになります。
麻酔をかけることで歯石除去の痛みや恐怖を与えずに処置をすることが可能になるのです。
では「高齢になると麻酔のリスクは高まるのか」ということですが、一概にそうは言えません。
「高齢=麻酔のリスクがある」ではないのです。
高齢犬では心疾患や腎疾患、糖尿病など何かしら合併症があることが多い傾向にあり、このような場合は麻酔のリスクが高くなります。
高齢だからというよりも、全身状態はどうか、持病はあるか、がリスクと関わってきます。
歯石除去に限ったことではないですが、麻酔をかける前には身体検査や血液検査、レントゲン検査などで全身の評価をすることが必要です。
100%安全な麻酔というのはありませんが、術前に全身状態を把握することでリスクを限りなくゼロにすることが可能になります。
高齢により免疫力が低下すると、歯周病菌がより増殖し、歯周病はどんどん進行します。
歯周病が原因で全身状態が悪化し、病院に連れて行く時には麻酔をかけられない状態にまでなっているということもあります。
麻酔事故を極度に恐れて、肝心の症状を悪化させてしまっては元も子もありません。
歯周病菌に対する抗生剤を使ってみる
高齢でも全身状態に問題なければ麻酔は大丈夫とは言ったものの、やはり麻酔をかけるのは避けたい、という飼い主さんもいます。
麻酔下での歯石除去を選択しない場合、抗生剤を使うことがあります。
歯周病の犬ではPorphyromonas gulae(ポルフィロモナス グラエ)という細菌が多く検出されます。
ポルフィロモナスは歯の表面に付着し、歯周ポケットから奥へどんどん進みます。
歯周ポケットの奥は空気の少ない場所なので、嫌気性菌(空気があると増殖できない細菌)であるポルフィロモナスはさらに増殖します。
クリンダマイシンは抗生剤の1つですが、ポルフィロモナスなどの嫌気性菌に効果がある薬です。
クリンダマイシンの投与によって、口臭や歯肉からの出血、腫れ、痛みの緩和が期待できます。
あくまでも症状の緩和という目的で使います。
「症状を引き起こしている根本の原因をなくす」ことも重要ですが、高齢犬の場合は「症状とうまく付き合っていく、症状を緩和させる」ことも重要なのではないかと思っています。
まとめ:歯石除去は麻酔下でやるべき!高齢だから麻酔をかけられないということはない
犬の歯周病はとても多い病気です。
歯垢が歯石になってしまうと、歯磨きではなく、麻酔下での歯石除去が必要となります。
麻酔下で歯石を取ることを躊躇する飼い主さんもいますが、最近の麻酔薬や麻酔機器は非常に安全なものになっています。
犬の麻酔関連死亡率は決して高くないことも事実です。
麻酔を過度に怖がって歯周病を悪化させてしまうことでQOLの低下や寿命の短縮につながってしまうことになりかねないので、かかりつけの獣医師とじっくり相談してみてはどうでしょうか。
参考文献
Brodbelt DC, Blissitt KJ, Hammond RA, et al. The risk of death: the confidential enquiry into perioperative small animal fatalities. Vet Anaesth Analg 2008;35:365-373.
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