こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
お家でわんちゃんを飼っていると、いつかこの子の赤ちゃんを見たいなあと考える人もいるのではないでしょうか。
でも犬の妊娠・出産ってどんな感じなんだろう?どんな準備が必要なんだろう?
と、不安な人が多いと思います。
今まで妊娠・出産経験のある飼い主さんでも、安全な妊娠・出産を迎えられるか不安ですよね。
人間の世界でも「戌の日」に安産祈願に行くように、犬は安産の動物と考えられていますが、実は必ずしもそうではなく、帝王切開をしなければいけなかったり、母体の命が危険にさらされることもあります。
そこで今日は、犬の妊娠中に注意すべき点や出産時の心構えについて解説します。
犬の出産に適した年齢とは?
犬は生後6~12ヶ月で初回の発情(生理)を迎えます。
発情を迎えれば体としては「妊娠できる状態」なのですが、若すぎても体への負担が大きいので、2回目以降の発情で妊娠するように交配しましょう、と私は飼い主さんにいつもお話ししています。
じゃあ何歳まで出産できるの?
発情自体は10歳を過ぎても見られますし、実際にそれぐらいの年齢で出産した犬もいましたが、安全に出産するとなると、5〜6歳ぐらいまでが出産に適した年齢でしょうか。
それ以降の妊娠も可能ですが、人間同様に犬も高齢になると出産リスクが高くなります。
犬の妊娠期間は?
交配した日を0日として、58〜63日間とされています。
犬種差や体格差による妊娠期間の違いはないとされていますが、私の経験上、トイプードルやチワワなど、小型犬は妊娠期間が短いように思います。
妊娠の診断方法は?
人の場合、尿検査で妊娠した時だけに分泌されるホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン/HCG)で判定しますよね。
最近では妊娠検査薬が普及しており、まず市販の検査薬を使う人が多いのではないでしょうか。
便利になりましたね…
しかし犬の場合、妊娠していてもしていなくてもホルモン分泌に変化がないので、尿検査では妊娠判定できません。
犬の妊娠診断は超音波検査とレントゲン検査の2つで行います。
超音波検査
妊娠してるかも?と思ったらまず初めに行う検査で、交配後25〜30日頃に行います。
いつの間にか妊娠してて、交配日がいつかわからない!という場合も、お腹が大きくなり始めるのがこの時期なので、「あれっ?もしかして妊娠してるかも?」と思ったらまず超音波検査を行います。
つまり、超音波検査で
- 妊娠しているか
- 心臓がちゃんと動いているか
がわかるんですね。
ただ、胎児の数が正確にはわからないのと、オスメスの判別もできません。
レントゲン検査
妊娠45日以降(出産予定日3〜7日前)に行う検査で、それ以前にレントゲン撮影を行なった場合、奇形児や流産、死産等の危険性があります。
胎仔の数を把握したり、母体と胎仔の大きさの関係から難産になりそうか?帝王切開すべきか?などを判定することができます。
レントゲン検査は必ずしも行う検査ではなく、動物病院によって方針は異なります。
一般的に、以下の順序で妊娠判定をおこなうことが多いです。
- 交配後25〜30日頃、超音波検査で妊娠確認
- 妊娠確認後、出産予定日の3〜7日前(交配後45日以降)にレントゲン検査で胎仔の大きさと数を確認
妊娠が確定してから約1ヵ月で出産になるので、それまでに2~3回の診察を受けましょう。
妊娠期間中の食事や運動量は変えるべき?
妊娠が判明したらまず気をつけることは「食事」ですね。
犬の妊娠期間は平均63日間で、その後さらに2~3週間の授乳期が続きます。
妊娠中・授乳中の犬では、栄養不良が深刻な健康問題につながったり、子犬の健康に影響することがあるので、この時期の栄養は重要です。
とはいえそんなに神経質になる必要はないですが、食事や栄養要求の変化について知っておくことは重要です。
妊娠の兆候(外見と食事の変化)
妊娠3〜4週間目では、外見上ほとんど妊娠の兆候はわかりませんが、人間の妊婦のつわりに似た吐き気や食欲不振の状態が起こることがあります。
そのときは無理せず、消化が良くお腹にやさしいフードを少量ずつ数回に分けて与えましょう。
妊娠5週目を過ぎると、犬のエネルギー必要量は子犬が成長するにつれて毎週10%増加するようになります。
同時に、お腹が徐々に大きくなり、胃が圧迫されるので一度に食べる量が少なくなってしまいます。
妊娠中にオススメのフードとは?
- お乳を作るために、高カロリーのもの
- お乳を作る、子犬の成長のためにカルシウムやリンが豊富なもの
- より少ない量のフードからカロリー摂取を最大化するために消化が良いもの
- タンパク質が豊富なもの
- 子犬の神経系発達のためにDHAが含まれているもの
これらを満たす、高カロリー・高タンパクの子犬用フードに変更するのが良いです。
出産後も、子犬が離乳するまでそのまま子犬用(授乳期用)のフードを与えることができます。
もう1つ気をつけることは「体重の変化」。
人の出産でも同じかと思いますが、安全に出産するためには体重が増加しすぎないようにすることが重要です。
サイズと品種にもよりますが、妊娠中の体重増加は元の体重から最大25~30%増未満に抑える必要があります。
妊娠中はできれば毎週体重を測定し、フードの量を調整するようにしましょう。
散歩についてですが、通常の散歩であれば今まで通りで構いません。
ただ、階段などの高低差の昇り降りや激しい運動(フリスビー、ボール投げなど)は控えましょう。
犬の出産の兆候とは?
犬では出産が近づくと、以下のような兆候がみられるようになります。
- 分娩数日前から落ち着きがなくなる(食欲が低下することもある)
- 分娩12〜24時間前になると巣作り行動を始める
- 分娩8〜24時間前になると直腸温が低下(小型犬35℃、中型36℃、大型犬37℃)
なので、出産予定日の3〜5日前から朝晩に体温を測るようにしましょう。犬の正常直腸温度は38度台です。出産間近になるとこの体温が下がるので、見逃さないようにしましょう。
その他、行動の変化としては食事を取らなくなる、排尿の回数が増加する、散歩に行きたがらない、そわそわして落ち着かないなどがあげられますが、必ずこのような行動をとるとは限りません。
出産時にこんな様子がみられたら病院に連絡しよう!
さあ、いよいよ分娩!
スムーズに胎仔が出てきてくれればいいのですが、必ずしもそうとは限りません。次のような場合にはかかりつけの動物病院に連絡しましょう。
- 破水が始まってから30分〜1時間経っても胎仔が出てこない
- 母犬がいきんでいるのに胎児がなかなか出てこない
- 破水当初に比べていきみが弱くなった
- 1頭目と2頭目の出産間隔が1〜2時間以上あく(通常20〜30分間隔で産まれる)
- 出血が多い
- 緑色のおりものが出る分娩終了後、3〜4時間経っても胎盤が排出されない
無事に出産が終わるか心配なのはよーくわかりますが、分娩中に母犬の近くでじっと見ていたり、手を出したりのはオススメしません。異常に気づけるぐらいのちょっと離れたところでそっと見守りましょう。
ちなみに、犬は頭から産まれてくることが多いですが、お尻から産まれるのも正常なんです。
出産終了!でも安心してはいけません!
出産が無事終了したら、お疲れ様!と言ってあげたいですが、飼い主さんはその後もしっかり母子の様子を観察しましょう。
子犬が呼吸をしているか、母子ともにぐったりしていないか、母乳を飲んでいるか、母犬が世話をしようとしない…など、何か異変があればすぐに動物病院へ連絡しましょう。
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