こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
今日はドライアイのお話。
人でよく聞きますが、動物でもドライアイはあり、特に犬ではよく見られる病気の1つなんです。
ドライアイは放っておくと視力を失う原因にもなります。
犬は人ほど視力に頼って生活しているわけではないので、少々視力が落ちても生活にさほど支障はないですが、早いうちに気づいてあげたいですよね。
今日は犬の「ドライアイ」についてお話しします。
Contents
ドライアイとは?
涙の分泌量が減少したり、涙の質が低下することによって眼の表面が乾燥する病気です。
正式には乾性角結膜炎(KCS;KeratoConjunctivitis Sicca)と呼ばれます。
初期では症状に気づきにくく、気づいた時には重症化していることが多いです。
とくに短頭種(パグ、フレブル、シーズー…)によくみられますね。
猫ではほとんどありません。
涙の役割とは?
ドライアイの話をする前に、まずは涙の役割についての話をしようと思います。
涙がどんな働きをしているか知らない人は意外といるんじゃないでしょうか。
- 乾燥や外からの刺激から眼を守る
- 異物の侵入を防ぎ、感染を防ぐ
- 眼に酸素や栄養を供給する
- 眼の表面の傷を治す
- 眼の表面を滑らかにする
涙は乾燥や異物などの刺激から守るという重要な役割を果たしています。
また、眼の表面(角膜)には血管がないため、涙によって角膜表面へ酸素や栄養の供給がされています。
そのほかにも、角膜の傷を治す成分が含まれていたり、眼を潤して瞬きをスムーズにするなどさまざまな働きをしてくれているんですね〜。
涙は3つの層からできている
いろんな役割を持っている涙ですが、成分は大きく分けて3つ。
外側から順番に、
- 脂質(油)層…涙を覆い、涙の蒸発を防ぐ
- 水層…涙の主成分で、角膜や結膜に栄養分を送る
- ムチン層…涙が流れ落ちないように安定性を保つ
水分とムチンは混じり合っているので、脂質と水分+ムチンの2層構造といったほうが正確かもしれません。
ドライアイの原因は?
犬のドライアイには、
- 涙の分泌量の低下(涙液減少型)
- 涙の質の低下により涙がすぐに蒸発(蒸発亢進型)
の2つのタイプがあります。
1つ目は何らかの原因で涙の量自体が低下してしまうもの。
2つ目は、涙の量は正常だけど涙の脂質やムチン成分に異常があり、眼表面で安定せず蒸発してしまうもの。
犬では涙腺から分泌される水層の減少によるもの、つまり1つ目の涙液減少型が多いんです。
水層が減少する原因はさまざま。
人の場合ドライアイと聞くと何となく、長時間のスマホ、パソコン作業やコンタクトレンズの装着などによる眼の乾燥、疲れ目をイメージしますよね。
では犬の場合はどうでしょう。
- 自己免疫性
- 先天性
- 薬の副作用
- 神経性
- 感染性(ジステンパーウイルス)
- 瞬膜腺の切除
- 全身疾患(糖尿病など)
わかっていないことも多いのですが、主にこれらの原因が考えられています。
自己免疫性が最も多いと言われていて、自分の免疫が涙液の分泌腺が攻撃することにより萎縮もしくは消失してしまい、涙を作ることができなくなってしまいます。
先天性というのは、生まれつき涙腺が欠如していたり、小さかったりと異常がある場合ですね。
薬によっては長期間服用することで副作用としてドライアイになってしまうものもありますが、基本的には薬を中止すれば治ります。
神経性というのは、涙の分泌に関係する神経に問題が起きたり、まばたきをするための神経(顔面神経や三叉神経)に麻痺が起きることでドライアイになります。
一昔前はジステンパーウイルスの感染によって起こることもありましたが、最近はほとんど見かけないですね。
それ以外にも瞬膜腺の切除(チェリーアイの手術ですね)、糖尿病や甲状腺疾患、副腎疾患などの全身疾患がドライアイの原因として考えられています。
ドライアイの症状は?
さて、次にドライアイの症状をみていきましょう。
ドライアイとは言っても、人のドライアイとは全く違う症状です。
症状に早く気付いて治療を始めることが重要です。
- 結膜・角膜の充血
- 眼の痛み
- ネバっとした目やに(黄色〜緑色)
- 眼の表面の乾燥
- 角膜の血管新生
- 角膜の色素沈着
初めは結膜・角膜の充血や目やにといった角膜炎や結膜炎と似た症状が現れます。
この時点では飼い主さんも気づかないことも多いです。
進行して涙が不足した状態が続くと、眼の表面の光沢が失われ、黄色いネバっとした目やにが多くなり、眼の表面や眼の周りにこびりつくようになります。
痛みがあると眼をショボショボさせてあけにくそう、ということもあります。
この時点でようやく、異常かな?病院行こうかな?という人が多いんですね。
さらに重症になると、角膜の酸素不足により角膜の血管新生が起こったり(角膜に酸素を送るために新しく血管が作られる)、慢性的な角膜への刺激により黒い色素沈着が起こったり。
失明まではいかなくても眼が見えにくくなってしまいます。
また、一度角膜が傷つくと涙が少ないために治りにくく、傷が深くなり角膜に穴があくこともあります。
どうやって診断するの?
まずは一般的な問診や身体検査をおこない、神経学的異常(顔面神経麻痺など)や手術歴、感染症がないかどうかを確認します。
次に角膜〜水晶体の検査(スリットランプ検査)、涙の量の検査(シルマーティア試験)、角膜の染色検査(フルオレセイン検査)などの眼の一般検査をおこないます。
これらの検査結果をもとに総合的に診断することになります。
シルマーティア試験
1分間あたりの涙の量を測定する検査。
下のまぶたに涙を吸い取る紙をはさんで、1分間にどれだけ吸い取れたかを調べる検査です。

正常だと17〜22mmの分泌があり、9mm以下だとドライアイの可能性があります。
フルオレセイン検査
眼の表面(角膜)に傷がないか調べる検査。
ドライアイの場合、傷が治りにくいので早めに見つけておかないといけまん。
治療法は?
原因によって治療は異なります。
わからない場合には対症療法(涙が少ないので、涙の成分を足してあげる…とか。)や診断的治療(治療をやってみて、効果があったものから病気を考える)をおこなうことになります。
どんな治療をするかというと、基本的には「点眼」ですね。
- 免疫抑制剤点眼
- 人工涙液点眼
- 抗生剤点眼
免疫抑制剤点眼
自分の免疫を抑える目的で使います。
涙の分泌腺が残っていれば涙を増やすことができますが、自己免疫によりダメージを受けすぎていると治療してもうまくいかないことがあります。
また、治療をやめると涙が少なくなって再発してしまうので、その場合は治療の継続が必要になります。
人工涙液点眼
涙が少ないので、人工涙液で補充しようっていうことですね。
とはいっても、人工涙液だけでは涙の代わりにはなれず、あくまで眼に対する補水作用のみになります。
しかし眼に潤いを与えることが一番重要なので、点眼による効果は高いです。
抗生剤点眼
ドライアイの場合、眼に感染が起きやすい状態になっているので抗生剤を点眼します。
犬のドライアイは一生治療が必要になることが多い!早めに症状に気づくことが重要!
人のドライアイというと、疲れ目、かすむ、乾燥、不快感…といった症状が思い浮かびますが、犬のドライアイは全く異なります。
犬のドライアイは、長期の治療と頻回の点眼が必要になる厄介な病気の1つです。
重症化すると眼に痛みが出てショボショボしたり、目やにで眼が開かなかったりQOLも下がってしまいます。
さらに、原因により違いはありますが、基本的には一生点眼による治療が必要になる場合がほとんどです。
しかし完治することができなくても、眼をキレイに維持することはできるので早めに症状に気づき、治療を開始することが重要です。