こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
私は今年、人生で初めて歯医者さんへ行きました。
「年齢の割にとてもきれいだし、虫歯も少ない」
と褒められましたが、歯石はたっぷり蓄積していたようです…笑
定期的に歯科検診に行かないとダメですね…
さて、今日は「歯」についての話。
人と同じように、犬も歯周病になります。
犬の高齢化が進むにつれて、歯周病になるわんちゃんも増えてきていて、3歳以上の犬の8割が歯周病、またはそのリスクがあるといわれています。
そこで今日は、
- そもそも歯周病とは?
- 歯周病の原因は?
- 歯周病の時にみられる症状は?
- いつ病院に行くべきか?
などについて解説します。
犬の歯周病とは?
歯周病とは、歯肉炎と歯周炎を総称したものを言います。
- 歯肉炎…歯肉の炎症のみにとどまっているもの
- 歯周炎…歯肉だけでなく、歯根膜やセメント質、歯槽骨といった歯周組織まで炎症が及ぶもの
下の図を見ながら説明します。
食べ物を食べて歯磨きをしないと、歯の表面や、歯と歯肉の間に歯垢が蓄積します。
歯垢には非常に多くの細菌が含まれていて、この細菌が産生する毒素によって炎症が起きます。
この炎症が歯肉のみに起こっている状態が歯肉炎です。
歯肉炎の時点で治療すれば炎症はおさまります。
しかし、それを放置していると、歯肉だけでなく、歯根膜やセメント質、歯槽骨といった歯を支えている歯周組織まで炎症が及んでいる状態が歯周炎です。
次の2枚の写真のうち、どちらが重度の歯周病に見えますか?
2枚目はキレイな状態、1枚目の方が、汚れや歯石がたくさんついていて、歯周病の程度がひどいと思った人が多いのではないでしょうか。
実際に口腔内レントゲンをとってみると、どちらも同程度の歯槽骨の破壊があり、歯周病の重症度は同じぐらいでした。
歯が汚い、歯石が付いている=歯周病
と勘違いされる飼い主さんが多いですが、そうではありません。
逆に、見た目歯がキレイだから歯周病じゃない、大丈夫というわけでもないんです。
歯周病の原因は?
では、どのように歯周病が進んでいくのかみてみましょう。
まず、正常な歯はこちら。
歯肉や歯周組織もキレイで、歯周ポケットもありません。
次は、歯周病の歯。
最初は歯肉のみの炎症(歯肉炎)ですが、やがて歯周組織まで炎症が広がります(歯周炎)。
すると歯周ポケットが形成され、さらにそこで細菌が増殖し、歯肉に強い炎症を起こします。
同時に歯石もどんどん付着し、歯肉が後退し、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
まとめると…
- 唾液由来のペリクル(膜のようなもの)が歯の表面を覆う
- ペリクルの上に細菌が付着
- 細菌が増殖し、歯肉に炎症が起こる(歯肉炎)
- 歯肉が腫れ、歯と歯肉の間に歯周ポケットができる
- 歯周ポケット内に細菌が増殖し、炎症物質を放出
- 炎症物質に反応した破骨細胞により歯根膜やセメント質、歯槽骨が破壊される(歯周炎)
- さらに炎症が進行し、歯周ポケットは歯がぐらぐらになるまで広がる
- 最終的に歯が抜けると、炎症はおさまる
このような感じで歯周病が進んでいきます。
歯垢や歯石は、歯磨きや歯石除去によって機械的に除去するしか方法はありません。
歯周病の症状は?
歯周病の症状として、次のようなものが挙げられます。
- 口臭
- 歯肉の腫れ・赤み
- 歯肉からの出血
- 鼻水
- くしゃみ
- 鼻血
最初に気付く異変としては口臭でしょうか。
顔を近づけてみてください。
「くさっ」と感じることはありませんか?
また、唇をめくってみて、茶色い歯石がついていませんか?
ぜひ一度チェックしてみてください。
鼻水やくしゃみ、鼻血まで症状が出ているとだいぶ進行している可能性があります。
しかし実際は、初期のうちに発見するのはなかなかむずかしいのか、来院した時にはすでに重症化していることが多いです。
歯周病の診断法は?
- 身体検査
- レントゲン検査(口腔内)
- プローブ検査
まずは、口臭がないか、歯石が付いていないか、歯茎や頬の腫れがないかをよく確認します。
これだけでは歯周病とは診断できず、レントゲン検査で歯根膜や歯槽骨の評価をすること、プローブで歯周ポケットの深さを測定することが必要です。
一般的に歯周ポケットの深さが3ミリを超えると歯周病が疑われます。
歯周病になりやすい犬の特徴は?
野生動物では歯周病はまれであるという報告があります。
一方、飼育下の犬や猫では歯周病が多く発生します。
そのなかでも歯周病になりやすい犬の特徴をあげてみます。
- 高齢犬
- 小型犬
- 短頭種(パグ、フレンチブルドッグ、シーズーなど)
- 全身性疾患で免疫が落ちている
- やわらかいフード(缶詰)を食べている
- 歯磨きなどのオーラルケアをしていない
高齢犬
高齢になると免疫力が低下し、歯周病細菌が増加しやすい傾向にあるので、歯周病が多くみられます。
小型犬
大型犬に比べると、小型犬は顎の大きさに対して歯が大きい(歯と歯の間がせまい)ので歯垢がたまりやすいので注意が必要です。
短頭種
短頭種は口腔内がせまく、歯の生えている位置や向きがバラバラで、隙間ができやすく、鼻が長い犬種に比べると歯周病になりやすいです。
フードの問題
食事内容も重要なポイントですね。
歯が磨耗しやすい食餌や、咀嚼回数が多いドライフードを与えている場合は、歯垢・歯石が付きにくくなります。
歯周病が悪化すると全身疾患へとつながる可能性も
歯周病はかなり重症になるまで気づかないことが多く、放置されがち。
- 下顎骨骨折
- 口鼻瘻
- 外歯瘻・内歯瘻
- 呼吸器疾患や循環器疾患など全身疾患
など、歯だけの問題ではなく、全身疾患の原因にもなるのです。
たとえば、歯周病が進行し下顎骨まで溶けると、ちょっとした衝撃で簡単に下顎骨が骨折してしまいます。
口鼻瘻は文字通り、口と鼻がつながった状態になることをいいます。
上の図で、歯を支えている歯槽骨が溶けてしまい、これが上顎で起こると、口と鼻をつなぐ瘻管ができてしまうのです。
口鼻瘻を放置してしまうと、慢性鼻炎や副鼻腔炎、肺炎を引き起こす可能性があるため、治療は必須です。
歯石の除去だけでは症状は改善せず、原因となっている歯の抜歯をしたあとに、その穴を閉じる必要があります。
口鼻瘻管の起こりやすい場所としては、上顎犬歯、上顎第3、第4前臼歯(一番大きい歯)です。
内歯瘻・外歯瘻は、歯周組織が破壊されて瘻管ができ、瘻管が顔の皮膚や歯肉にまで貫通し、穴が開いてしまうことをいいます。
口の中へ膿が出ているものを内歯瘻、(皮膚を破って)口の外へ排膿したものを外歯瘻とよびます。
さらに、口の中だけではなく、全身にも影響を及ぼします。
歯周病菌は唾液や呼吸、歯周ポケットからの血管を介して全身をまわり、心臓や肝臓、腎臓などに悪影響を及ぼすと考えられます。
最近の研究で、人でも歯周病が糖尿病や心臓病、動脈硬化など、全身の病気を引き起こす原因になっていることが知られてきました。
動物でも同様に、心臓や肝臓、腎臓の疾患につながる可能性があり、結果的に寿命を縮めてしまうことになります。
歯周病は予防・早期発見が重要!いつ病院に行くべき?
歯周病は飼い主さんが予防できる病気です。
しかし歯周病の初期症状が見逃され、病院へ来る頃には重症化していることが非常に多いです。
では、どのタイミングで病院へ行けばいいのか?
- 口が臭いかも?
- 歯茎が赤く腫れてる?
- 歯石がついてるかも?
こんな症状があれば早めに病院へ行きましょう。
歯周病を放置していると、全身へ悪影響を及ぼすこともあります。
予防・早期発見で防げる病気なので、お家で口の様子を観察してみる、定期的に動物病院でチェックしてもらうなど、できることからはじめてみましょう。
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