こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
みなさん「ニキビダニ」って知ってますか?
ニキビダニは、人の顔の皮膚(皮脂腺)に寄生するダニで、皮脂を栄養として生きています。
何だか聞くだけでぞっとしますね…
さて、そんなニキビダニ、実は犬や猫にもいるんです。
人のニキビダニとは種類や出る症状がちょっと違います。
今日は犬のニキビダニについて解説します。
犬のニキビダニとは?
現在、ニキビダニは
- Demodex canis
- Demodex injai
- Demodex cornei
- Demodexcyonis
の4種類が報告されていて、ニキビダニによる皮膚疾患をニキビダニ症といいます。
犬に多く猫では非常にまれな疾患です。
また、ニキビダニは宿主特異性が高く、他の動物種に寄生することはありません。
犬で最もよくみられるD.canisは毛包に常在していて、分娩後2〜3日以内に母犬から子犬へ感染します。
つまり垂直感染がメインで、成犬から成犬へ感染する水平感染はほとんどありません。
ニキビダニ症の症状とは?
ニキビダニは正常な犬の皮膚にも存在していて、普段は悪さをせず、症状を出すことはありません。
- 若齢(3ヶ月〜1歳半)、老齢
- 生まれつき免疫の異常
- 栄養不良
- 薬剤の使用(ステロイドなど)
など、免疫に異常があった場合にニキビダニが増えて症状が出てしまいます。
ニキビダニ症の症状は、局所に出る場合と全身に広がる場合がありますが、これらを鑑別することは治療法を決定するために重要なポイント。
局所性の特徴 | 全身性の特徴 |
---|---|
2.5㎝未満の病変が6ヶ所以下 | 病変が13ヶ所以上 |
目や口の周り、四肢に見られることが多い | 顔や体幹部、四肢にかけて全身にみられる |
予後は良好 | 炎症が強く、痛みが出ることがある |
局所性
部分的にしか症状は出ないので、軽症のことが多いです。
全身性
症状が全身に広がると、治療に時間がかかります。
ただ、局所性か全身性かの境界線ははっきりとはしておらず、獣医師によって判断が分かれることも多いです。
また、発症した年齢が若齢か成犬かによって重症度や予後に大きく影響します。
一般的には、若年性の方が自然治癒しやすいです。
- 若年性:3〜18ヶ月以内に発症したもので、成犬発症に比べると軽度で治癒しやすい
- 成犬発症:18ヶ月以降に発症したもので、基礎疾患に起因するものが多い
成犬発症性のものでは、
- 副腎皮質亢進症
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病
- 免疫抑制剤による治療
- 腫瘍
- 加齢に伴う皮膚機能の低下
など、基礎疾患が関与していることが多く、皮膚の治療だけでは改善しません。再発することも多く、やっかいです。
成犬の全身性のニキビダニ症では、皮膚検査以外に血液検査などで基礎疾患が隠れていないか調べておく必要があります。
ニキビダニ症の検査法は?
写真の左の方にみえるのが毛包虫。
これを次の検査をして検出します。
抜毛検査
病変部位の毛を抜いて顕微鏡で検査します。
侵襲性が低く、まず初めにおこなう検査でもあります。
皮膚掻爬検査
鋭匙やメスの刃で、病変部位を血が出るぐらいまでこすり、採取したものをを顕微鏡で観察します。
毛穴の中の毛包虫を削り出すので、抜毛検査より検出感度は高いのですが、侵襲性も高いです。
犬が痛がったり、皮膚から血が出るまで削るので、ひどくなったのではないかと飼い主さんに思われることが多いので、きちんとその説明をした上で検査をおこないます。
ニキビダニ症の治療法とは?
治療法はシャンプーと駆虫薬がメインとなってきます。
シャンプー(皮膚環境の改善)
ニキビダニ自体は皮膚に毛包に常在しているので、完全に除去することが治療目標ではありません。
毛穴の環境を健康に保つことで、毛穴の中にいるニキビダニとうまく付き合っていく必要があります。
具体的には、毛包内のクレンジングや抗菌を目的に、週1~2回の頻度でシャンプーします。
推奨される薬用成分は、過酸化ベンゾイルや硫黄サルチル酸で、角質溶解作用と脱脂作用のあるシャンプーです。
若年性発症の場合、シャンプー療法のみで改善することが多いです。
また、ニキビダニが増えて皮膚バリアが壊れると、二次的に細菌感染(ブドウ球菌など)が加わり症状が悪化するので、その場合は抗生剤の投与もおこないます。
駆虫薬
- イベルメクチン
- ドラメクチン
- ミルべマイシン
- モキシデクチン
- アフォキソラネル(商品名:ネクスガード)
- サロラネル(商品名:シンパリカ)
- フルララネル(商品名:ブラベクト)
これまではイベルメクチンの外用や注射が主流で、何度も通院が必要でした。
しかし、
本来ノミ・マダニ駆除薬であるイソオキサゾリン化合物(アフォキソラネル、サロラネル、フルララネル)が製品化されてから、ニキビダニ症に対する有効性が示されている。
Beugnet F. Halos L. Larsen D. de Vos C. Efficacy of oral afoxolaner for the treatment of canine generalised demodicosis. Parasite. 23 : 14. 2016.
という論文にもあるように、ノミ・マダニ予防と同時にできるので、ネクスガードやシンパリカ、ブラベクトといった内服薬を選択することも多くなってきています。
基礎疾患の治療
ニキビダニ症の背景に基礎疾患があると治療は困難になります。
皮膚の治療と同時に基礎疾患のコントロールをすることで、ある程度状態を維持することができますが、再発することも多いです。
また、発情や出産、ワクチン接種、消化管内寄生虫などが悪化因子となりうるので、注意が必要です。
まとめ:ニキビダニは正常な皮膚にも常在している。年齢や基礎疾患の有無によって予後はさまざま。
ニキビダニは正常な皮膚にも常在している寄生虫ですが、普段は毛包や脂腺に潜んでおり悪さはしません。
若年性のものや局所性のものであれば基本的には予後は良いです。
しかし、成犬発症性で全身性のものは基礎疾患に起因するものが多く、治療のコントロールがむずかしくなります。
その場合は、症状を緩和しながらうまく付き合っていくことが大事になるでしょう。
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