こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
猫のフィラリア予防の現状
全国300の動物病院に対するアンケート
「猫のフィラリア予防の予防を実施しているか?または飼い主さんにすすめているか?」
→はい:55% いいえ:45%
「猫のフィラリア予防を実施しない理由は?」
→1.費用面で飼い主さんの同意を得るのがむずかしい(43%)
2.予防の必要性を感じない(29.2%)
3.成猫の場合、途中からの導入がむずかしい
ということで、半数以上の動物病院で猫のフィラリアの予防をしてないんですね。
犬に比べて猫のフィラリアに対する獣医師の関心の低さや情報不足がそのまま飼い主さんにつながっていると考えられます。
事実、私も積極的にはすすめていませんでした。
研究が進んでいるアメリカでも猫のフィラリアの予防は5%程度といわれています。
猫に寄生するフィラリアとは?
犬に寄生するフィラリアは「犬糸状虫」。
猫に寄生するフィラリアも「犬糸状虫」。
同じなんですね。
まず、犬の体内でのフィラリアの成長過程をおさらい。
①フィラリア(L3)をもった蚊が、犬を吸血。
犬の体内にL3が入ることで、犬はフィラリアに感染。
②犬の体内に入ったL3は、皮下や筋肉、脂肪組織を移動しながらL4、L5と成長。
③L5は血管に入り、心臓の肺動脈をめざして移動。
④肺動脈にたどりついたL5は成虫になる。
⑤成虫が産卵し、ミクロフィラリアがうまれます。
⑥ミクロフィラリアは血液中をただよいながら、蚊に吸血されるのを待つ。
そして蚊が吸血。
⑦蚊の体内に入ったミクロフィラリアは、L1、L2、L3へと成長。
L3は、蚊の口先まで移動して、再び犬へ入るのを待つ。
このサイクルを繰り返してます。(Lは幼虫の成長段階をあらわす)
簡単に言うと、
ミクロフィラリア→L1→L2→L3→L4→L5→成虫と成長します。
では、猫ではどうなるのでしょうか。
犬と同じように、蚊に刺されることで感染します。
犬と異なるのは、
猫はフィラリアに対して抵抗生が強いということ。
猫の体内に入ったフィラリアの成長は遅く、成虫まで成長するものは少ないです。
本来は「犬の」寄生虫ですもんね。
猫のフィラリアの症状は?
- 咳
- 呼吸困難
- ほとんど症状を出すことなく突然死
呼吸器症状がメインですが、ほかにも食欲不振や下痢、嘔吐などの症状を示すことがあります。
先ほど、猫の体内ではフィラリアはL5までしか成長できないといいましたが、
「それなら症状も出なさそう、大丈夫なのでは?」
と思う方もいると思います。
しかし、このL5が肺で死滅すると、その死骸が原因で肺炎や肺血管塞栓症を起こします。
その結果、咳や呼吸困難といった症状が出るんですね。
したがって、犬の場合は心臓が影響を受けますが、猫では肺がより強い影響を受けることになります。
はっきりした症状が出ないまま、突然死することもあります。
猫のフィラリアの検査・診断法は?
猫のフィラリア症で最もむずかしいのが検査と診断。
- 血液検査(抗原検査、抗体検査)
- レントゲン検査
- エコー検査
この結果を総合的に判断します。
抗原検査
簡単に言うと、フィラリアの分泌物を検出する方法。
犬で日常的に行われているフィラリア検査がこれです。
しかし、
- 猫での検出感度が低い
- オスの成虫をみつけられない(メスの分泌物のみ検出可能)
- 幼虫をみつけられない
といったデメリットがあります。
抗体検査
抗体検査はフィラリアに対する抗体を検出する検査で、過去に感染していたかどうかがわかります。
しかし、この検査も検出感度が低いというデメリットがあります。
レントゲン検査
犬ではレントゲン検査で心臓が大きくなっていたりすることがありますが、猫では心臓の変化はあまりみられません。
肺に異常がみられることもありますが、レントゲン所見が気管支炎や喘息など、ほかの呼吸器疾患と鑑別しにくいです。
エコー検査
フィラリアの寄生数が多ければエコー検査でみえますが寄生数が少ない猫では検出がむずかしい。
獣医師の技術によるかも。
猫のフィラリアの治療法は?治るの?
フィラリアと診断できたとしても、治療がまたむずかしい。
フィラリアの成虫がいた場合は「吊り出し術」をおこないます。
血管から特殊な器具を入れて、心臓の血管からフィラリアを引っ張り出す手術です。
そのほか、出ている症状に合わせて、その症状を緩和させる治療をおこなっていきます。
呼吸器症状だけなら、ステロイドや気管支拡張剤で一時的に症状が改善されることがあります。
猫のフィラリアの予防薬はある?
猫をフィラリアから守るための予防薬は、
- レボリューション
- ブロードライン
「フィラリア予防薬」といいますが、実際には、フィラリアの幼虫(おもにL3とL4)をターゲットにして駆虫する薬です。
蚊に刺されないようにするのは困難ですし、フィラリアが体内に入ってくるのは予防できません。
なので、体内に入ってきたフィライアが成長する前に駆虫することで予防するという意味なんですね。
○幼虫(L3、L4)
×未成熟虫(L5)
×成虫
ここでもう一度思い出してほしいのがフィラリアの生活環。
L3:体内に侵入してしばらくとどまる
↓ 3〜12日
L4:脱皮して50日間以上組織で過ごす
すべてのフィラリア予防薬は、このL3とL4をターゲットにしています。
レボリューション
レボリューションは、
- ノミ
- ミミヒゼンダニ
- 猫回虫
- フィラリア
に効果があります。
ブロードライン
ブロードラインは、最近出た予防薬。
- ノミ
- マダニ
- 猫回虫
- 猫鉤虫
- 瓜実条虫
- 多包条虫
- フィラリア
これだけたくさんの寄生虫を予防できる薬はないですね。
レボリューション、ブロードラインともに皮膚に液体をたらすタイプの薬剤です。
フィラリア予防をするために薬を与えるというよりは、ノミ・マダニの予防をメインに考えて、それに付属してフィラリア予防もついでにやっちゃおう!という考えでいいのかなと思います。
まとめ:猫のフィラリア予防は必要か?
迷うところですよね。
私自身も猫に対しては積極的にフィラリア予防をすすめていません。
一度も猫のフィラリア症をみたこともありません。(診断できていないだけかもしれませんが。汗)
猫は犬ほどフィラリアの感染率は高くないですし、予防をしないという選択肢もありだと思います。
とくに蚊の少ない地域、完全室内飼いなど、猫を飼っている環境によっては感染の機会が少ないと考えられる場合は、予防の必要性は高くないと思います。
ただ、今はノミ・マダニ、そのほかの寄生虫と合わせてフィラリア予防ができる薬が出ているのでそちらを選択するのもいいですね。
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