こんにちは、獣医師のにわくまです。
「最近、飼っているウサギが首をかしげるようになったな」
今日はウサギのエンセファリトゾーン症について解説します。
ウサギの斜頸といえば・・・
「斜頸」とは、
首を左右どちらかに傾けて、まっすぐに戻らない、首をかしげた状態のままのことをいいます。
眼振(眼がゆれ動く)、同じ方向にぐるぐる回る、立てなくなってすぐに倒れるなどの症状もみられます。
斜頸自体は病名ではなく、原因はさまざまです。
ウサギの場合、斜頸といえば
- エンセファリトゾーン症
- 中耳炎・内耳炎(細菌感染)
- 外傷
- 脳腫瘍
などが原因として考えられます。
このなかでも、エンセファリトゾーン症、内耳炎・中耳炎をおぼえておきましょう。
内耳炎・中耳炎から起こる斜頸
Pasteurella multocidaという細菌が原因。
ウサギのスナッフルに多い原因菌と同じですね。
細菌感染が内耳まで広がり、斜頸の原因となります。
レントゲン検査やCT検査で耳に蓄膿がないかなどを確認します。
抗生剤で治療します。
昔は、エンセファリトゾーンは国内にはないと考えられてきたので、ウサギに斜頸がみられればパスツレラなどの細菌感染が原因と考えられてきました。
しかし、国内でもエンセファリトゾーンの報告がされるようになり、しかも意外と多いということがわかってきました。
今ではウサギの斜頸は、「エンセファリトゾーン症」を代表的な原因として考えなければいけません。
エンセファリトゾーン症とは?
「感染性運動麻痺」として初めて報告された感染症です。
ウサギ脳灰白炎、ノセマ感染症とも呼ばれます。
Encephalitozoon cuniculi(エンセファリトゾーン カリキュリ)という原虫(寄生虫の一種)が原因。
正常な場合でもほとんどのウサギがエンセファリトゾーンをもっていると言われていて、免疫がしっかりしていれば症状は出ません。(不顕性感染)
犬や猫、人、マウスなどにも感染しますが、ウサギはとくに感受性が高いです。
エンセファリトゾーンは脳、腎臓、肝臓、眼球、肺、心臓などに感染します。
感染した場所によって症状が違ってきます。
おもに腎臓の尿細管に寄生し、尿を介してほかのウサギにうつると考えられています。(水平感染)
また、胎盤を介して親から子へうつる可能性もあります。(垂直感染)
ウサギのエンセファリトゾーン症の症状は?
宿主が健康だとエンセファリトゾーンはおとなしくしており、悪さはしません。
しかし、ストレスやほかの病気が原因で免疫が下がると、
- 斜頸
- 眼振(眼がゆれ動く)
- 運動失調(立てない、歩けない)
- ローリング(横に倒れてぐるぐる回る)
- 麻痺
- けいれん
- 食欲不振
- 成長不良
などの症状が出るようになります。
斜頸が出る前に、片方の耳が垂れ下がることもあり、エンセファリトゾーンによる斜頸の初期とも考えられるので要注意。
エンセファリトゾーンが感染する場所によって症状は違うので、腎臓に感染すると腎不全や尿失禁、眼球に感染すると白内障など、症状はさまざまです。
ウサギのエンセファリトゾーン症の診断はむずかしい
- 臨床症状
- 抗体価の上昇(ペア血清)
- 病理組織学的検査での各臓器の炎症所見
- 病巣内における病原体の検出
この4項目の確認が必要なんですね。
むずかしい言葉が並んでますが、最後の2つはウサギが死亡してから剖検することで確認できるので、生きている間はできません。
また、剖検したとしても、病原体を臓器から直接検出することはきわめて困難といわれていて、確定診断はむずかしいんです。
ペア血清は、感染初期(発病直後)と回復期(発病後2〜3週間)の血液中の抗体価を測定します。
この抗体価に一定以上の差があれば診断できます。
しかし、ペア血清の抗体価の測定は動物病院ではあまりおこなわれておらず、普及していません。
症状や治療に対する反応をみながら、あくまで仮診断をくだすことになります。
エンセファリトゾーン症は生前診断が困難で、死亡してから剖検をしても確定診断はむずかしい。
ウサギのエンセファリトゾーン症の治療法は?
残念ながら有効な治療法はありません。
そもそもエンセファリトゾーン症と確定診断することがむずかしいので、ほかの病気の可能性も考えながらいくつかの薬で反応をみていくことになります。
私が実際おこなったことのある治療法と、その反応を紹介します。
といっても、エンセファリトゾーンが疑わしい症例に出くわしたのは3回しかありません。
- 斜頸がみられたが、元気食欲はあり、耳はきれい
- 斜頸、ローリングしてうまく立てない、元気食欲はあるがうまく食べられなくて便量も少ない、耳はきれい
- 斜頸、ローリングしてほぼ動けない、元気食欲がない、耳はきれい
それぞれこのような症状がみられました。
この3症例に対して、
- ベンツイミダゾール系の駆虫薬
- 抗生剤
- ステロイド
を投与して様子をみました。
3つ目の症例では、皮下補液やビタミン剤投与もおこないましたが、残念ながら10日後に亡くなってしまいました。
上2つの症例では、完全には斜頸は治りませんでしたが、頻度は減り、元気食欲もあって良好に維持できています。
エンセファリトゾーン症が疑われたときには、ベンツイミダゾール系駆虫薬(フェンベンダゾール)を投与します。
骨髄抑制の副作用があるので、定期的に血液検査で血球数を確認しながら投与する必要があります。
ステロイドに関してはいろんな考えがあると思いますが、脳炎に対する対処法として使っています。
しかし、パスツレラなどの細菌が原因の場合、ステロイドを使うことによって悪化してしまうので、抗生剤も同時に投与します。
副作用のことを考えて、ステロイドを使わず抗生剤だけで様子をみる獣医師もいると思います。
まとめ:ウサギの斜頸の原因はさまざまだが、そのなかでもエンセファリトゾーン症はわかっていないことが多い
ウサギの斜頸の原因はいろいろありますが、そのなかでも代表的なエンセファリトゾーン症。
生前診断が困難で、突然死することもあります。
治療法についても現在のところ有効なものはなく、症状は改善することはあっても完治はのぞめません。
これからの研究で、有効な診断法や治療法の開発を待ちたいと思います。
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