こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
みなさんは愛犬愛猫にどんなフードを選んでいますか?
フードを選ぶ中で、最近「グレインフリー」と表記されたペットフードが販売されているのを見たことがあるのではないでしょうか?
今日はフードに穀物が含まれているかいないかでどのような影響があるのか、また、犬や猫にグレインフリーフードを与えるのが適切なのか、という点について解説します。
グレインフリーフードとは?
グレインとは「穀物」のことで、主にイネ科植物(米、小麦、大麦、トウモロコシ、キビ)の種子を指します。
グレインフリーのペットフードは、これらの穀物を含まないフードということです。
「犬や猫は穀物を消化できないので、それを取り除いたグレインフードが彼らにとって良いフードだ」と言われることがありますが、本当にそうなのでしょうか。
グレインフリーフードとはいっても炭水化物は含まれている
穀物の主成分はデンプン、つまり炭水化物。
グレインフリーといわれると炭水化物が入っていないのか?
と勘違いされますが、実はそうではありません。
ドライフードは形を作る上で「デンプン(炭水化物)」が欠かせません。
穀物不使用のグレインフリーのドッグフードにも他のドッグフード同様、炭水化物が含まれています。
実はグレインフリーフードは、ジャガイモなどのイモ類や豆類といった穀物ではないデンプンを使って作られているのです。
つまり、炭水化物源としての小麦やトウモロコシの「イネ科植物」が「イモ類」「マメ類」へ置き換えられているんですね。
犬や猫は穀物を消化できないのか?
「犬や猫は野生ではもともと穀物を食べないから消化できない、避けたほうがいいのではないか」という意見があります。
しかし、犬や猫は炭水化物を加水・加熱処理してアルファ化(糊化)することで、消化できるようになることがわかっています。
ペットフードに含まれる穀物は加水・加熱処理されて炭水化物もアルファ化されているので、問題なく消化できることがわかっています。
ペットフードに穀物は必要か?
小麦や米、トウモロコシなどの穀物には、炭水化物だけでなくタンパク質や繊維質、ビタミン、ミネラルといったさまざまな栄養素が含まれています。
例えば「小麦」の場合…
- 小麦胚芽…ビタミン類や必須脂肪酸、抗酸化成分が豊富
- 小麦ブラン…食物繊維、ビタミン類が豊富
- 小麦グルテン…良質なタンパク質が豊富
- デンプン…エネルギー源
他にも、トウモロコシは食物繊維、ミネラル、ビタミン類、メチオニン(アミノ酸の一種で尿のphを調整)などの栄養素が含まれています。
さらに穀物は、犬や猫のライフステージや病気に合わせて栄養成分を調整する上で欠かせない栄養源となります。
例えば腎臓病の場合、ミネラルの1つである「リン」を制限することで、診断後の寿命に影響を与えることが報告されています。
小麦グルテンやコーングルテンなど植物性のタンパク質は、リンの含有量が少なく、高消化性、高品質な原材料として利用されることがあります。
グレインフリーフードは穀物が含まれない代わりに、肉や魚などのタンパク質を多く含んでいます。
タンパク質は分解されると最終的にアンモニアになりますが、これは体にとって毒素となります。
その毒素を体外に排出してくれるのが腎臓ですが、腎臓病の犬猫がタンパク質の多く含む食事をとると、さらに腎臓に負担をかけてしまうことになります。
また、トウモロコシや小麦の胚芽は抗酸化成分を多く含んでいるので、高齢の犬猫には最適です。
つまり、グレインフリーは健康な犬猫にとって特にメリットはないということ、またペットフードに含まれる穀物は、犬猫でも消化できる形で含まれており、むしろ良いエネルギー供給源になるということですね。
グレインフリーフードは犬や猫に適しているのか?
グレインフリーのペットフードは、穀物に対する食物アレルギーがあるなど穀物を避けるべき理由がある場合は選択肢の1つとして考えてもいいでしょう。
食物アレルギーとは、食物に含まれる主に「タンパク質」に対して体が異物と認識してしまうため起こる反応です。
つまり、タンパク質であればすべてが食物アレルギーの原因になる可能性があります。
アレルゲンとしては、肉や魚、乳製品などの動物性タンパク質と、穀物や野菜などの植物性タンパク質が挙げられます。
しかし、犬と猫の食物アレルギーに関する論文によると、「牛肉や鶏肉などのアレルギーに比較して、穀物によるものは少ない」ということが報告されています。
また、炭水化物源としての穀物を減らすことで、相対的にタンパク質の含有量が増えてしまうと、高齢期の犬猫にとっては内臓に負担がかかることもあり、注意が必要です。
食物アレルギーが疑われる場合には、動物病院でアレルゲンの確定診断をしてもらってから利用するといいでしょう。
グレインフリーフードは安全で身体に良いというわけではない
健康な犬や猫がグレインフリーフードを摂取したとしても、何か身体に良い影響があるかということに関して科学的な根拠があるわけではありません。
FDA(アメリカ食品医薬品局 ;Food and Drug Administration)はグレインフリーフードが犬や猫に健康被害を与える可能性があると報告しています。
FDAは、2014年1月1日~2018年4月30日にDCM(拡張型心筋症)の発症が報告された犬の症例560件を調べ、最も頻繁に与えられていた16のペットフードブランドを特定した。560件の症例のうち、119件が死に至っていた。
調査をしたDCMの症例の90%以上で、グレインフリーの餌が与えられていた。また、その93%の餌に主成分としてエンドウマメやレンズマメが含まれていた。
心筋の深刻な病気であるDCMは、心臓を膨張させ、血液を送り出すのを困難にし、心臓弁の漏れを引き起こす。これにより、うっ血性心不全として知られる胸水と腹水の貯留が起き、死に至る恐れがある。早期発見と適切な治療、食事の改善を行うことができれば、症状を改善できる可能性がある。
(参考)American Veterinarian:FDA Warns of Possible Link Between Grain-Free Dog Foods and Heart Disease
まとめ
- グレインフリーフードにも炭水化物は含まれている
- 犬や猫は市販されているフードに含まれている炭水化物の量であれば消化吸収できる
- 穀物アレルギーを持っている犬や猫にはグレインフリーは有効
- グレインフリーが健康に良いという科学的根拠はない
最近「グレインフリー」と書かれたペットフードが販売されており、穀物は犬や猫に必要ない、グレインフリーのフードが本来の食事だ!とする意見があちらこちらで見られ、一見すると「そうか、グレインフードの方が身体に良いのか」と思ってしまいがちです。
しかし、「穀物が入っている=悪いフード」「グレインフリー=良いフード」ではありません!
私は穀物アレルギーなどがない健康な犬や猫は「グレインフリーにこだわる必要はない」と考えています。
「本当に健康状態やライフステージに合っているのか?」
「栄養バランスは適切か?」
迷う場合には獣医師に相談し、適切なフードを選ぶようにしましょう。
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