動物病院の診察で獣医師がすべきこと〜獣医師の仕事〜

こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。

動物病院で臨床獣医師として働いています。

日々の診療で獣医師がどのように診察を進めているのか、人間の医療との違いはどういうところなのか?を書いてみたいと思います。

目次

まずは問診から。飼い主さんの話をじっくり聞く。

診察に飼い主が動物と入ってくると、まずは問診から始めます。

まず、問診とは、

医師が診断の手がかりを得るために、患者に直接、現在の自覚症状や既往歴、内服薬、家族歴、アレルギー歴、渡航歴などを聞くことである。

広辞苑

人間の場合、患者本人から自覚症状について詳しく聞くことができますが、言葉の話せない動物相手だとそうはいきません。

動物病院と人間の病院で大きく違うところは、体調が悪い本人(動物)から直接話を聞けないというところです。

ではどうするのかというと、飼い主さんから動物の症状を聞き出すことになるのです。

人間の病院だと、小児科、とくに0〜2歳児の診療が同じかもしれません。乳幼児は自分で症状を話すことができないので、必ず保護者から問診をとることになりますね。

「どこが痛いのか」

「いつから食欲がないのか」

「どれぐらいかゆみがあるのか」

など主訴(患者が医者に訴える症状のうちの主要なもの)について詳しく聞き出します。

食欲がないといっても、全く食べないのか、いつもの何割ぐらいしか食べないのか。かゆみを10段階で評価するとどれぐらいか。元気がないというが、いつもはどういう動きをするのか。など。

客観的な情報を聞き出す必要があります。

また、原因に心当たりがあるかということも重要です。

たとえば食欲がなくて下痢をしているという主訴の場合、直前にどこかへ出かけたか、他の犬との接触はあったか、何か食べた可能性があるか、といったことも重要な情報です。

警察官が行う事情聴取のような感じですね。

何気ない会話の中に診断の手がかりとなるような情報が隠れていることもあります。

かと言って、飼い主さんの話が全て真実とも限りません。

たとえば左の後ろ足が痛そうだとやってきた動物も、触診すると実は右足が痛そうだということもわかったり、この子はフード以外のものは絶対に食べないと言っていても、実はおもちゃを丸呑みしていたり…飼い主さんの話を鵜呑みにしてはいけないということもあります。

問診で得られた情報をもとに、これからおこなう検査を組み合わせて複合的に考えなければいけません。

と、ここまでいろいろ書きましたが、診察室に入ってきた瞬間に獣医師がまず考えることは、命に関わる状態なのか、そうではないかということです。

たとえば呼吸が荒そうで…という主訴だった場合、その動物の様子を見て、明らかに呼吸困難な場合は、簡単に話を聞くだけにして、まずは検査、処置を優先することもあります。

酸素室に入れるなどして、状況が落ち着いたら飼い主さんに話を聞いたり、説明をするという流れになることもあるし、必ずしも問診を最初にするというわけではありません。

次に視診・触診・聴診…五感を使って診察

問診をしたあとは、体重や体温を測定したり、聴診器で心拍数を数えたり心雑音がないかをチェックします。

体にできものがあるというときは、場所や大きさ、色を見たり、足が痛そうだというときは足先から膝、股関節、腰を触ったり、口が何か変というときは口の中をのぞいたりよだれがないか見たり、体の隅々までチェックします。

どこかわからないけど抱っこするとキャンと鳴くという主訴も多くて、首や背中、お腹、前足、後ろ足…と順番に触っていくと痛みの場所がわかることもあります。

家では痛くて鳴くのに、病院では我慢しているのか、それを再現できないことがよくあります。そのかわり、痛い場所を触ると噛みつこうとしてくるとか、力が入るとか、「鳴く」以外の痛みのサインを見逃さないことも重要です。

視診や触診で得られる情報はたくさんあり、主訴以外にも異変を発見することもできます。

たとえば「口が痛そう、臭い」という猫。

口の中を見ると歯石がたくさんついていて、臭い。おそらく歯周病はありそうだ。

ここで全身を見てみると、骨が浮き出るほどうやせていて脱水もしている。もしかしたら腎臓病があるのではないか?そのため口臭があったり、口内炎ができて口が痛いのではないか?

そこで「最近水を飲む量が増えたとか、おしっこの量が増えたとかないですか?」と聞いてみると、「そうそう実は…」

と、口以外の全身を見ることで新たな情報を得ることができます。

五感をフルに使うと、呼吸器疾患なのかな、消化器疾患なのかな…とある程度予測を立てることもできます。

足を挙げている、という主訴で意外と多い原因が肉球に異物(トゲや植物、とくにノギ)が刺さっているというもの。これは刺さっているものを取り除くだけで治るので、これが原因で足を挙げてたんだね、と言えます。

このように、問診・視診・触診だけで診断がつくこともありますが、このような症例ばかりではありません。

血液検査、レントゲン検査、エコー検査…必要な検査をしながら情報を集める

診察室で問診、触診などをしながら、原因としてどんなものが挙げられるか、次はどんな検査をしようか、はたまた様子を見てもいいものかを考えます。

検査をするとなると、

  • 血液検査
  • レントゲン検査
  • エコー検査

たいていどこの動物病院でも、この3つの検査ができる設備を備えていると思います。

これぐらいの検査をすると、原因はどこにありそうだとか、問題はなさそうだとか、今の動物の状態を知ることができます。

前述したような問診、視診、触診、聴診は追加で費用がかかることはないし、動物にもそんなに負担をかけることはありません。

そして、先生によっては、ムダな検査はするな!必要な検査だけをしなさい!と言われることもあります。

たとえば、元気食欲はあるけど昨日1回だけ吐いた、という主訴の場合は、対症療法をして様子をみるということもあるし、上に挙げたすべての検査をするのは過剰かなと思います。飼い主さんにも動物にも負担をかけることになりますしね。

しかしこういった検査だけでは限界があります。

見た目上どこも悪くなさそうに見える場合もたくさんあるし、たしかに体調は悪そうだけどどこに問題があるんだろうということもあります。

なので次のステップとして、上に挙げた3つの検査で最低限の検査データを集めて状態を把握することが必要かなと思います。

検査をすることで確定診断できるに越したことはないですが、もし異常がなかった場合でも、この病気の可能性は低そうだ、とか除外診断をすることもできるのです。

ちょっと話は変わりますが、今は健康診断を受ける人が多くなっています。

それだけ飼い主さんの動物に対する健康意識が高まっているのでしょう。

7歳以上になるとシニアと呼ばれる年齢になり、年一回の定期検診をすすめられることもあると思います。

うちの子はまだ元気だしまだいいかな、という飼い主さんもいますが、元気な時に検査をしておくことで、今後体調が悪くなった時と比較することができたりと、意味がないわけではありません。

血液検査、レントゲン検査、エコー検査を必要に応じておこない、総合的に診断を考えます。

最後に診断、治療をするけれど…

獣医師はこれらの診察結果をもとに総合的に判断して確定診断をします。そしてその診断に合った治療をするのが基本です。

しかし、確定診断までたどりつかないこともよくあります。

飼い主さんからしたら、「原因は何なの?」「診断名は?」とはっきりした答えがほしいのは当然だと思います。

前述したような検査をおこなって、AとBは原因として考えにくい。残ったCとDとEが原因として考えられるけど、今の段階でははっきりわからない、ということもあります。

この場合、教科書的には追加の検査をして鑑別して治療するべきなのかもしれないが、例えば、CT検査、MRI検査、内視鏡などは動物の場合麻酔をかける必要があるので、動物や飼い主さんの負担を考えるとそこまでできないこともあります。

次の検査に進むのか、まず薬の反応を見てみるのか、など動物と飼い主さんに合わせた治療方針を考える必要があり、獣医師の腕の見せ所でもあります。

教科書と実際の臨床の現場では異なることもたくさんあり、教科書に書いてある通りに診断をすることが必ずしも正しいとは限らないのです。

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