こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
獣医学部の2年目になると、解剖学を学びます。
動物の体の中身を学ぶもので獣医学部に入って初めての本格的な専門科目で、「獣医っぽい科目」に最初はとてもワクワクします。
しかし!分厚い教科書、難しい筋肉や骨などの名称、そしてその膨大な量に圧倒されることになります。
今日は獣医学部に入って最初の関門、「解剖学」について書いてみようと思います。
そもそも解剖学とは何を学ぶ科目なのか?
解剖学には、大きく分けて肉眼解剖学と組織学(顕微解剖学)があります。
- 肉眼解剖学:肉眼によって剖出と観察を行う解剖学(Macroanatomy)
- 組織学:顕微鏡を用いて人体の微細な構造を明らかにする学問(Microanatomy)
私の大学では当時、解剖学という一つの授業の中で、最初に「肉眼」を学び、後半で「組織学」を学びました。
動物の体の見える部位として、何を思い浮かべますか?
頭、首、腕、足、お腹、背中、尾…などですよね。そしてそれらの表面を皮膚や毛が覆っています。
皮膚の下には脂肪があり、その下には血管や筋肉、神経、骨などがあり、さらにその中には心臓や肺、食道、胃、肝臓などの臓器があります。これらを一つ一つバラバラにして肉眼で見えるレベルで解明していくのが肉眼解剖学です。
そして、それらの臓器をもっと細かく見てみようというのが組織学です
例えば皮膚。皮膚を肉眼で見てもペラペラの皮1枚、にしか見えませんよね。これを顕微鏡で観察してみると、表皮・真皮・皮下組織の3つから成り、さらに表皮は角質層、顆粒層、有棘層、基底層から成って、真皮には皮脂腺があって…と、細胞レベルまで見ることができます。
このように臓器を顕微鏡レベルで解明していくのが組織学です。
つまりミクロとマクロで動物の体を学ぶ科目です。
解剖学と聞くと、肉眼解剖学をイメージする人が多いかと思いますが(私もそうだった)、組織学も立派な解剖学の一つです。
このように解剖学では、体をつくる組織や器官の構造を肉眼、そして顕微鏡レベルで観察しながら動物の体の構造を学ぶため、かなり多くのことを理解できたような錯覚に陥りますが、まだ獣医学の基礎を学んだに過ぎません。
とはいえ今後、病態や臨床を学ぶ上で必要な知識で、土台になる部分と言えます。
臨床をやると、例えば骨折の症例でどの骨のどの部分が骨折しているのかを表現する必要が出てきます。
前肢骨折、だけでは分からないですからね。「橈尺骨の遠位端」など、骨の名称と位置が他の獣医師にも伝わらなければいけません。
骨や筋肉の名称を覚え、さらにその機能も理解することはかなり大変です。しかし、こういった用語や機能を知らないと、後々の授業はもちろん、獣医師として働き始めてからも苦労します。
私自身、解剖学の授業は苦手で、試験の点数もいいとは言えず、追試は何とか免れたというレベルなので、偉そうなことは言えませんが。
解剖学で重要なことは動物の体の正常な構造を学ぶということです。
正常な構造を知るということは、病気を診る上で大切で、何がどのように正常と異なるかを見つけるためにも必要なことなのです。
獣医学部の解剖学は動物種間の比較が重要である
医学部ではヒトという一種類だけを解剖をするのに対して、獣医学部では牛や馬、鶏、犬も同じように解剖して、動物種間での違いを比較します。
動物種によって体の構造は全然違います。骨一つとっても、数や形、位置が動物によって違うのです。
例えば「胃」。
犬や猫、馬、ヒトは単胃動物といって、胃は一つしかありません。これに対して、牛や山羊などの反芻動物は胃が4つに分かれています。
もう一つ例を挙げると「肺」。
犬では肺は左右に分かれ、さらに右側が4つ(前葉、中葉、後葉、副葉)、左側が3つ(前葉前部、前葉後部、後葉)の7つに分かれているのに対し、馬では右側が3つ(前葉、後葉、副葉)の5つに分かれています。
試験では動物種間の比較が試されるので、各動物の肺葉の数をゴロで覚えたりもするのですが、すぐに忘れてしまうものです。
臨床の現場に行って、犬のレントゲンをとって白い影が写っていたとします。右側だというのはわかるけど、どの肺葉だろう?そもそも犬の肺って何葉だっけ?ということもあります。飼い主さんに説明したりカルテに書くときに「肺のこの辺が白くなっている」ではダメなので、肺の左側の後葉が…と言えるようになるためにも、解剖学は重要な科目と言えます。
人間にはあって犬にはない構造というのもあります。
例えば「鎖骨」。
人では、鎖骨は腕(肩関節)と体幹をつなぐ役割をしていて、腕をグルグル回したり、横に大きく腕を広げることができます。肩関節の可動域を広いのは鎖骨のおかげです。
それに対して犬は鎖骨がないため、肩甲骨は横に広がりません。犬の肩甲骨は、体の側面に筋肉を介してしっかり固定されている(地面に対して垂直に)ので、人のように前足を真横に開いたりと、広い可動域がありません。
しかし、犬は前足を遠く、前に伸ばすことにより速く走ることができます。
このように、動物の体の構造と、その機能を目で見て学ぶことができてとてもおもしろいです。
動物種間の違いというと、牛と馬で脂肪の量が全く違いました。
牛を地面に倒し、学生は長靴と手袋を着用して解剖するのですが、皮膚を切るとその下の皮下脂肪で手も長靴もヌルヌルして滑りやすくなるのだけど、馬は余分な皮下脂肪がなく、そのようなことはありませんでした。
あと、馬の筋肉は他の動物と比較してやはり隆々というか、綺麗だな、と感じました。
解剖学は座学と実習があり、とても濃密な授業である
私の大学では当時、午前中に解剖学の座学、午後に解剖学実習で実際に動物を解剖する、といったスケジュールでした。
前期のうち前半2ヶ月ぐらいで肉眼解剖学、後半1ヶ月半で組織学を学ぶので、短期間で膨大な知識を詰め込むことになります。
座学では、先生が黒板に臓器の図を書きながら、重要な部分の名称を書いてくれます。教科書に書いてある全ての構造物を覚えることは不可能なので、かいつまんで教えてくれます。つまり、テストに出るような部分ですね。笑
実習では数人の班に分かれ、犬は1班に1頭、鶏は2人に1頭、牛と馬はクラス全員で1頭を解剖します。
最初に、命を捧げてくれた動物達に黙祷。
今日は後肢、明日は前肢、次の週は体幹部…というように部位ごとに解剖していきます。
まずは皮膚をメスで切る。すると筋肉が見えてくる。
教科書と照らし合わせながらその筋肉を観察します。
ここで確認するのは筋肉の名称だけではありません。
筋肉の中でも骨格筋は端っこが骨にくっついていて、どこで始まりどこで終わっているのか(起始点、停止点)といった筋肉の走行も一つ一つ確認します。
そしてスケッチをしながら各部位の名称を書き込み、自分のノートを完成させていきます。
1頭の動物から得られる情報というのは膨大です。学べることは全て吸収するという気持ちで解剖します。
筋肉や骨をはがすと臓器が見えてきます。
胃、腸、肝臓、脾臓、腎臓…
教科書で学んだものが次から次へと出てきます。
それらは一つ一つの臓器としてそこにあるんだけど、全てつながっているんだ、ということも実感できます。
実習には解剖学研究室の5、6年生が補助として参加してくれて、分からないところがあったら聞くこともあるのだけど、基本的には自分達だけで解剖していくので、教科書を見ながら、
「あれ、この筋肉の下にはこの血管があるはずなんだけどなぁ」
とか
「この筋肉みつからないね。別の筋肉と一緒に切っちゃったかな。」
ということもあります。必ずしも教科書通りに全て綺麗に解剖できるわけではなく、とても難しい。
そして足一本を解剖するだけでも半日ほどかかってしまいます。
無我夢中で解剖していると、気づいたら外は真っ暗、なんてことは毎回のことで、体力的にもハードだし脳みそもフル回転する実習です。
そうやって犬1頭を解剖し終えると、次は牛、馬、鶏の順で解剖していきます。
牛や馬はクラス全員で1頭を解剖するので、数人がメスで切って一つの臓器が出ると、全員でそれを確認するという流れででやっていきました。
牛や鶏の解剖で思い浮かべてしまうのは、やっぱり焼き肉、でしょうか。
ここがハラミか、とかセンマイってこうやってみるとグロいな、とかこれが焼き鳥のヤゲン軟骨か、とどうしても焼き肉の部位を思い浮かべてしまうのは獣医学部の解剖授業のあるあるではないでしょうか。
しばらく焼き肉を食べられなくなる人もいるのでは…
解剖学は獣医学の基礎!しっかり学べ!
解剖学は基礎科目として学ぶように、まさに獣医学の基礎です。
低学年でいきなり専門用語がバンバン出てくるので、全部暗記してしまえ!と丸暗記に走ってしまうと、高学年になって病理学や臨床の科目を学んだときに内容がつながりません。
とはいえ私も、定期試験や国試は暗記で通過してしまったので、臨床医として勤務している今も、もっとしっかりやっておけばよかったなあ、もう一度学び直したいなあと思う科目の一つでもあります。
大学を卒業して獣医師として仕事をしていると、剖検(病理解剖)といって、病気で亡くなった患者さんを解剖して、死因は何だったのかを調べることもあります。ですが、剖検するにはもちろん飼い主さんの了承が得られないとできないですし、そんな機会はめったにないでしょう。
ましてや健康で正常な動物を解剖するということは学生時代の解剖の授業以外ではできない貴重な経験と言えます。
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