こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
犬も風邪をひくの?
子犬を飼い始めたばかりなんだけど、鼻水やくしゃみが出てるみたいで、これって風邪?
はい、犬も咳やくしゃみ、鼻水といったいわゆる「風邪」のような症状が出ることがあります。でも正確には犬の「風邪」という病名はなく、ウイルスや細菌によって引き起こされる感染症のことを「風邪」と呼んでいます。
これは人間でも同じですね。
鼻水やくしゃみ、咳などが出る呼吸器感染症の1つに、「ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)」があります。
今日はケンネルコフとは何なのか、症状や治療法について解説します。
ケンネルコフ(犬伝染性気管支炎)とは?
ケンネル(ペットショップやブリーダーなど犬が密集して多頭飼育されている場所)で感染、発症することが多く、コフ(咳)を主症状とすることから「ケンネルコフ」と呼ばれています。
なるほど〜。ということはわりと子犬に多いのかな。
ケンネルコフは急速に広がる可能性がある、非常に感染力の強い呼吸器疾患です。
犬の診察をしていると、ケンネルコフの症状に遭遇することがとっても多いです。
主に若齢の犬(生後6週間から6ヶ月)での発症が多いです。
しっかりとした免疫力のある成犬では感染しないようなウイルスや細菌が、免疫力の未熟な子犬に感染してしまうためです。
持病がある犬や高齢犬など、免疫が低下している場合も発症がみられます。
主な感染経路は接触感染や飛沫感染で、感染している犬の鼻水やくしゃみ、咳によって次々と感染してしまいます。
ペットショップやブリーダーの所でケンネルコフの原因となる細菌やウイルスに子犬がすでに感染、発症している、あるいはお家に来た段階で発症することがほとんどです。
また、新しいお家への環境の変化や移動、寒暖差によるストレスにより子犬の免疫力がより下がってしまうことも発症の要因の1つと考えられます。
さて、そんなケンネルコフの病原体は何かというと。
いくつかのウイルスや細菌、マイコプラズマが病因に関与していますが…
- パラインフルエンザウイルス
- 気管支敗血症菌
- 犬アデノウイルス2型
主にこの3つが深く関与していて、単独感染でも症状は出ますが、混合感染することによって重症化してしまいます。
しかし、原因となっているウイルスや細菌を特定するのは難しいです。
ケンネルコフの症状とは?
ケンネルコフでは、人間でいう「風邪っぽい」症状がみられます。
- 咳
- 鼻水(透明から膿性)
- くしゃみ
- 目やに
- 発熱
- 呼吸困難
- 食欲低下
のどに何か詰まったような「カッカッ」という乾いた咳が特徴的。
一度は聞いたことがあるのでは?
また、気道分泌物が増え、痰がからむと湿った咳になります。
とくに運動した時や興奮した時、気温や湿度の急な変化した時に咳が多くなり、発作性の咳でゲーゲーと吐くような様子もみられます。
初期症状としては、咳を1日2、3回する程度で軽症のことが多いですが、重症化すると、1日何十回も咳をし、高熱や膿のような鼻水、目やにが出ることもあります。
症状が悪化すると肺炎を起こし、食欲がなくなったり呼吸困難になったりします。
治療が遅れると、ぐったりして亡くなってしまうこともあります。
ケンネルコフの診断法は?
先ほども言ったように、原因となっているウイルスや細菌を特定することは難しいです。
血液検査や胸部レントゲン検査でも正常から軽度の異常所見が認められる程度であることが多いため、確定診断はできません。
臨床症状やどんな飼育環境か、他の疾患の除外など問診を行いながら診断します。
ケンネルコフの治療法は?
原因となっているウイルスや細菌を特定するのは難しいというお話をしましたね。
なので、特効薬のようなものは残念ながらありません。
対症療法で症状を抑えていくことになります。
- 抗生剤
- 気管支拡張剤
- 抗炎症剤
- 去痰剤
- 鎮咳剤
- ネブライザー
細菌の二次感染を防ぐために抗生剤から始めることが多いです。
鎮咳剤は咳を鎮める薬ですが、そもそも咳は気道内の異物や分泌物を体外に出すための体の防御反応なので、「咳がひどいなら止めてしまえばいい」と安易に使うのはよくありません。
咳がひどくて体力の消耗が激しい、夜寝られないなどの場合に使われることがあります。
ネブライザーは吸入療法の一つで、抗生剤やステロイド、気管支拡張剤、気道粘液溶解剤などを混ぜてエアロゾル化し、経口・経鼻的に肺や気道内に到達させます。
私も子供のころ耳鼻科でよくネブライザーをしました。
鼻に直接器具を入れるやつね。
経口投与よりも即効性があり、全身に対する副作用も少ないので取り入れやすい治療法です。
軽症の場合は1週間〜10日で自然治癒することもありますが、それ以上ひどくならないよう自宅で安静に過ごさせ、とくに子犬の場合は充分な栄養を与えるために食事管理も重要です。
しかし適切な治療をおこなっても、長い期間しつこく咳だけ残る場合も多く、治療は1〜数ヶ月かかることも多いです。
このような治療のほかに、冷気や乾燥した空気、ホコリ、タバコの煙なども気道を刺激し、咳が出やすくなるので、加湿器で部屋の空気の乾燥を防ぐ、部屋の換気・掃除をこまめにすることも大切です。
ケンネルコフを予防するにはどうしたらいい?
「まずマスクをしましょう!」
と言ってもわんちゃんの場合はムリですよね…笑
というわけでまずは「ワクチン」。
ケンネルコフを引き起こす原因となるウイルスである犬パラインフルエンザと犬アデノウイルス2型にはワクチンがあるので、ワクチン接種をすることである程度は予防することができます。
しかしケンネルコフは、他にも感染源となる病原体の数が多く、混合ワクチンを打っていても感染することがあります。
クチンをうってるからケンネルコフにはならない!というわけではないんですね。
ただし、混合ワクチンによって予防できる病原体もあり、重症化を防ぐことができるので、定期的に予防接種することをオススメします。
また犬の飼い始めは、環境の変化などによるストレスが原因で免疫力が下がり、ケンネルコフに感染しやすくなります。
新たに犬を迎えた場合は、できる限りストレスを与えないように配慮しましょう。
ペットショップやブリーダーのところで、すでにケンネルコフに感染していたということが多いので、まずは動物病院で健康チェックを受けることも、重症化を避けるためには大切です。
また、「咳」という症状に関して言えば、ケンネルコフ以外にも、咳を特徴とする犬の病気は、フィラリア症や気管虚脱、僧帽弁閉鎖不全症など他にも数多くあります。
ケンネルコフ以外の病気が隠れている場合もあるので、気になる場合は動物病院で相談してみるのがおすすめです。
ただ、犬の咳を聞いたことがないと、「これって本当に咳かな?」と思うこともありますよね。
咳かどうかわからない場合は、動画を撮影して獣医師に見てもらってください。
確実な方法です!
あと、1日何回咳が出るのか、どのタイミングで咳がでるのか(朝・夜・散歩後など)を観察してみてください。
診断や治療をする上で重要な情報となります。
ささいなことでもいいので、気になったらできるだけ早めに動物病院を受診しましょう。
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