こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
今日は「歩き方の異常(後ろ足)」についてお話ししようと思います。
「歩き方が変…?腰がふらついてるような…」
「片方の後ろ足をかばって歩いているようで、どこか痛めたのかしら…」
こういった主訴は日常の診察はもちろんのこと、夜間救急の診察でも多いんです。
今日は、歩き方の異常(とくに後ろ足)がみられたときに考えられる病気をいくつか解説します。
膝蓋骨脱臼
日常の診察でとてもよく遭遇する疾患です。
散歩中に片足あげることあるけどすぐ治る、とか、健康診断で「ちょっと膝がゆるいですね」と言われたことはありませんか?
もしかしたら「膝蓋骨脱臼」かもしれません。
症状を伴わない場合がほとんどで、見過ごされやすく身体検査でたまたま発見されることも多いです。
膝蓋骨ってどこの骨?
膝蓋骨は膝にある丸い骨のことで、私たち人間にもありますよね。
「膝のお皿」とも言われ、正常であれば「滑車溝」という膝にある溝にはまっています。(下の図)
通常、膝蓋骨は膝の曲げ伸ばしに合わせて上下に動きます。
この膝蓋骨が「脱臼」すると、骨が本来の位置から外れてしまい、左右にも動くようになってしまいます。

上の図のように、とくに内側に外れることが多いです。(内方脱臼)
膝蓋骨脱臼の原因は?
さて、膝蓋骨脱臼の原因は何でしょうか?
- 先天的な膝関節の骨や周囲の筋肉・靱帯の異常
- 成長段階で大腿骨と膝の内側の筋肉群との張力バランスの不均衡外傷(打撲や高所からの落下)
- 栄養障害
大きく分けると先天性と後天性ですね。
ほとんどが先天性ですが、生まれつき外れているわけではなく、滑車溝が浅かったり、筋肉や関節の異常で膝のお皿が内側に引っ張られやすいなど、脱臼しやすい状態にあり、成長とともに症状が出てくるということなんですね。
後天性のものだと、打撲や落下などで膝周りの損傷が起きたり、栄養障害などで骨に変形が起こると脱臼しやすくなってしまいます。
どうやって診断するの?
重要なのは問診と触診です。

実際に診察室を歩く様子や立っているときの様子を見て、どの足に異常があるのか確認します。
そして膝蓋骨を中心に足を曲げ伸ばししながら骨や関節、筋肉などを触っていきます。
膝蓋骨脱臼が疑われる場合、症状の重症度、グレード分けをします。
これは治療方針を決定するためにも重要なんですよ。
治療法は?
治療法は基本的に手術です。
が、必ずしも手術が必要なわけではなく、もちろん「手術をしない」選択をすることも多いです。
その場合は、安静や体重管理、家での生活環境見直し、リハビリ、サプリメント…などで様子を見ます。
どんな犬種に多い?
どの犬種でも起こる可能性があります。
そのなかでもトイプードル、ヨークシャテリア、ポメラニアン、チワワ…など、小型犬に多くみられます。
骨折と同じくちょっとした衝撃で骨が外れてしまった可能性がありますので、早めに病院へ連れていってあげてください。
頻繁に脱臼していると、犬が自分で足を伸ばして治すこともあるので、「さっきまで変だったけど治った!」と思われる方もいるかもしれません。
そもそも脱臼しても痛みがないことも多く、気づかない人も多いです。
しかし膝蓋骨脱臼は重症化すると手術が必要になったり、今まで通りに歩けなくなってしまうので、歩き方が戻った!と思っても一度病院で診察を受けましょう。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯は大腿骨(太もも)と下腿骨(すね)をつなぐ太い靭帯のひとつで、膝を安定化させる靭帯です。
前十字靭帯断裂は、この前十字靱帯が切れてしまう病気ですね。
切れてすぐは違和感を感じる程度かもしれませんが、だんだん炎症がひどくなると痛みも出てきて、後ろ足をあげたり引きずったりするようになります。
前十字靱帯は、加齢により靭帯の強度が弱くなったり、肥満により負担がかかることで切れやすくなります。
また、小型犬で膝蓋骨脱臼がある場合も靭帯に負担がかかるために発症の要因となり、膝に急激な外力(外傷や打撲、急なジャンプやダッシュ、事故など)が加わることで前十字靱帯断裂が発症します。
どの犬種でも認められますが、体重の負担がかかりやすい大型犬から超大型犬に多く発症します。

ここでも問診と触診が重要。
さらにレントゲン検査も合わせておこないながら診断します。
股関節脱臼
しょっちゅうみる病気ではないですが、たまーに遭遇します。
歩き方の異常や後ろ足をあげるといった症状がみられます。
交通事故や落下などによる強い力がかかり脱臼が起こる、つまり外傷性の脱臼が一般的です。
問診や触診で歩き方の異常や痛みがないか確認します。
レントゲン検査で診断できますが、同時に骨折がないかをかくにんすることも重要なんですね。
脱臼以外に異常がない場合にはできるだけ早く手で整復します。
椎間板ヘルニア(脊椎・脊髄疾患)
これも日常の診察で多い疾患です。
そもそもヘルニアというのは、臓器の一部もしくはすべてが、本来あるべき場所からはみ出している、ズレている状態のことをいいます。
おへそが出ている「臍ヘルニア」や、腸管が出ている「そけいヘルニア」などがありますよね。
では椎間板ヘルニアとはなんでしょうか。
背骨の骨と骨の間にはクッションがあります。
その部分を椎間板と呼ぶのですが、椎間板が何らかの原因で正常な位置から飛び出してしまし、脊椎の中を通る脊髄を圧迫する状態のことをいいます。
ダックスフンドやコーギーのように、胴の長い犬種に多いと思われている方も多いかもしれませんが、トイプードルやビーグル、ペキニーズなどの犬種でも見られます。
腰あたりを触るとキャンと鳴く(痛がる)、腰を丸めてじっとしている、歩き方が変、ふらつく…
など、症状はいろいろ。
椎間板ヘルニアが悪化したり、発症から長時間経過すると、麻痺などの症状が出て、自力で立ち上がったり排尿ができなくなることもあります。
椎間板ヘルニアは早期発見・早期治療が大切です。
少しでも違和感を感じたら、早めに病院へ連れて行ってあげてください。
骨折・外傷
骨折や外傷も多いですね。
子犬、特に小型犬の骨は非常にもろく、椅子やソファーから飛び降りるなどといったちょっとした衝撃でもすぐに折れてしまいます。
誤って踏んでしまった、ケージに引っかかった、お子さんが抱っこしてて落とした、などもよくあるので気をつけてあげましょう。
また、散歩道にはガラスの破片や木の枝など、肉球を傷つけてしまうものがたくさんあります。
夏は気温が上がりアルファルトが熱くなるため、火傷をする危険性もあるでしょう。
また、爪の伸びすぎで巻き爪になってしまい、爪が肉球に刺さってしまうこともあります。
これらが原因で肉球が傷ついていることもよくあるので、心当たりがある場合は肉球を確認してみましょう。
まとめ
おうちのわんちゃんが足を引きずったり、歩き方に違和感がある時、それは異常がある可能性が高いです。
どこかに痛みがあったり、麻痺などで動かせなくなったりして、歩き方に異変が出ていることが考えられます。
中には緊急で治療が必要なケースもあるので、様子を見ていて少しでも気にかかったら早めに病院に連れていってあげましょう。