こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
「犬の咳」ってどんなふうにするか知ってますか?普段診察の中で飼い主さんと話をしていると、犬の咳がどんなものかわからないって人、意外と多いです。
人はケホケホ、たまにゴホゴホみたいな感じですが、犬は違います。ガハーッガハーッと喉に何か詰まったような、最後には何かを吐き出そうとしているんじゃないか?と言う感じの咳です。なので、飼い主さんの中には、嘔吐と勘違いしている人も多いです。
こういう場合は、動画があれば判別できるので、余裕があればスマホで動画を撮ってもらえると獣医師としてもありがたいです。
さて、咳の中には様子をみてもいいものもありますが、何か病気のサインであることが多いです。
今日は、犬が咳をする原因や、危険な咳の見極め方について解説します。
咳とは?
まず、咳とは気道に侵入した異物(ほこりや煙、ウイルスなど)を追い出すために起こる体の防御反応です。
肺や気管を異物から守るための反応ですね。
冷気や物理的圧迫などの気道に対する刺激で起こるほか、痰を外に出すためにも咳が出ます。
「乾いた咳」「湿った咳」っていうけど、違いは何なの?
乾いた咳とは、「ケッケッ」といった痰が絡まない咳のことで空咳ともよばれます。
一方湿った咳とは、気管や気管支の炎症によって分泌物が増え、痰が絡んだ咳のことです。
乾性か湿性かによって、咳の原因や治療法が異なってくるので、これを見極めることは重要です。
犬が咳をしているときに考えられる原因は?
では、犬が咳をしているときに考えられる原因をみていきましょう。
- 生理的なもの
- 気管・気管支
- 肺
- 心臓
- ケンネルコフ
- フィラリア症
- 誤嚥
生理的なもの
- 外に出て冷たい空気を吸った時
- リードを引っ張った時
- 吠えた後や興奮した時
- 水を飲んだとき
この場合は、緊急性が高いものではないでしょう。
ただし何度か続くようであれば、水の飲ませ方やリード・首輪のサイズ、室内の空調などに問題があるかもしれません。
- 水やフードを一気に与えない
- 首輪を胴輪に変える
- 冷気の強い時間帯の散歩を避ける
- 部屋の空気を加湿、保温する
- 刺激性のあるもの(タバコや芳香剤など)を避ける
など生活環境やグッズを見直し、それでも続く場合は獣医師に相談してみてくださいね。
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気管・気管支に異常がある
犬ののどを触ってみてください。
コリコリ?ゴリゴリ?ホース状のものが触れますよね。
これが気管です。
気管はホースのような構造をしていて、首の動きに合わせて動くため、硬さと柔軟さを持つ臓器です。
その先には気管支があり、気管よりもさらに細い組織で、気管支は肺のガス交換をおこなう肺胞に開口しています。
気管や気管支に原因があるものとして代表的なのは、気管虚脱と気管支炎。
気管虚脱
気管虚脱は簡単に言うと、ホースの構造を保つ気管が気管が虚脱する(つぶれる)病気。
本来、気管は軟骨に囲まれているので、いくら強く呼吸をしてもぺたんこにつぶれることはありません。
それが何らかの原因で軟骨が弱くふにゃふにゃになってしまうとホース状の形を保てず、ぺたんこにつぶれてしまうのです。
上の図で言うと、とくに軟骨のない部分(膜性壁)から強くつぶれます。
遺伝や肥満、高温多湿の環境、よく吠えたり首輪などによる頸部への圧迫刺激などが発症の要因と関わっていると考えられていますが、詳しいことはわかっていません。
症状としては、軽い咳から喉に何かが引っかかったような咳がみられます。
ガーガーとガチョウが鳴くような咳が特徴的といわれます。
徐々に連続性となり、長い咳の後に「カーッ」と痰を吐くような仕草をするようになります。
気管虚脱は進行性の病気で、重症化すると苦しくて夜寝られない、チアノーゼ(酸素不足により下が青紫色になる)、呼吸困難、失神を起こします。
ヨークシャテリア、ポメラニアン、トイプードルなどの小型犬でよく見られますが、柴犬などの中型犬でも見られます。
気管支炎
- 2ヶ月以上ほぼ毎日咳が出る
- 気管支内に粘液が多く分泌される
- 他に原因となる心疾患や肺疾患がない
この3つを満たした場合に慢性気管支炎の可能性が高くなります。
肥満や歯周病、受動喫煙、大気汚染(排気ガスなど)、感染(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫)が原因と考えられていますが、よくわかっていません。
完治は困難で、治療により症状が改善しても再発することが多いです。
心臓
心臓が大きくなることで、心臓の上にある気管が圧迫されて咳が出ます。
咳のほかにも疲れやすい、呼吸がハアハアしている、失神などの症状がみられることがあります。
高齢になると最も多い心臓病は僧帽弁閉鎖不全症で、とくに小型犬に多くみられます。
ケンネルコフ
いわゆる「犬の風邪」。
ペットショップやブリーダーから迎えたばかりの子犬に多く、咳のほかにくしゃみや鼻水などの症状がみられ、重症化すると肺炎を起こすこともあります。
フィラリア症
蚊に刺されると感染する寄生虫症。
フィラリアは心臓や肺動脈に寄生し、咳のほかにちょっとした運動で息切れしたり失神することがあります。
毎月の投薬で予防できる病気です!
必ず予防しましょう。
咳が出ているときの検査方法は?
- 問診、身体検査
- レントゲン検査
- 血液検査
- 超音波検査
- 気管支鏡検査
咳の原因を探るときに重要なのが、問診です。
問診で獣医師が知りたいこととは…
- いつから咳をしてる?
- 咳が出る時間帯は?(朝?夜?)
- 咳が出るタイミングは?(興奮した時?安静にしている時も出る?)
- 咳が出る時間は短い?長く続く?
- 乾いた咳?湿った咳?
- お家の環境は?(喫煙者がいる?)
- 混合ワクチンうってる?
- フィラリア予防してる?
などなど。
このような情報から原因を絞っていきます。
しかし、飼い主さんの中にはそもそも「これって咳なのかな?くしゃみかも?」と他の症状と間違えてとらえてしまう人も多いです。
「どんな咳ですか?」と質問するのですが、これがなかなか伝わらない…
診察室で咳をしない子も多く、困った困った(汗)
こんな時のために、咳の動画を撮ってもらえるとありがたいです!口で説明するより伝わりやすいのでスマホで撮影したものを診察時に見せて下さいね。
レントゲン検査では気管の走行や肺、心臓の大きさなどを評価し、超音波検査では弁の形態や動き、血流の方向など、リアルタイムで心臓の中を確認します。
気管支鏡検査は気管にカメラを入れて気管内に病変がないかを検査しますが、麻酔が必要で、できる病院も限られています。
こんな感じで咳の原因を探っていきますが、はっきりした診断がつかないこともしばしば。
咳の治療法は?咳は必ずしも止めた方がいいわけではない
咳の治療法は原因によって異なります。
咳が呼吸器からくるものなのか、心臓病からくるものなのか、生理的なものなのかを判断した上で治療を開始します。
原因によっては完治しないものもあり、症状の緩和を目的として治療を行うことも多いです。
気管虚脱のように、最終的に外科的治療をおこなうこともあります。
そして咳に対する治療法ですが、「必ずしも咳を止めたほうがいいわけではない!」ということです。
最初に説明したように咳は異物に対する生体防御反応であり、体を守るための反応なんですね。
安易に止めてしまうとさらに病気が悪化してしまう可能性があります。
しかし、夜も眠れないほど咳がひどかったり、体力を消耗するなど、本人や家族のQOLが低下するようであれば積極的に咳を止める治療をおこないます。
犬が咳をしている時にお家でできる対策はある?
咳という症状に限らず、呼吸器疾患や心臓疾患全般に言えることですが、内服薬や外科的治療をおこなう前に開始すべき対策がいくつかあります。
たとえば…
- 吸入刺激物を避ける(芳香剤やアロマなど)
- タバコの煙などを避ける(禁煙しましょう!)
- 部屋の空気の保温・加湿
- 冷気の強い時間帯の散歩を避ける
- ダイエット
- 首輪から胴輪への変更
- 口腔ケア
とくに肥満はすべての呼吸器症状を悪化させると言っても過言ではありません!
診察で肥満気味と指摘された場合はダイエットしましょう。
まずフードを減量用に変更するのがおすすめ。
お家で犬が咳をしていたら病院に行くべき?危険性の高い咳とは?
犬が咳をしていた場合、まずは家でできる対策をおこなってみて、それでも改善されない場合は早めに病院へ行った方がいいでしょう。
そのときに、先ほど挙げた項目についてチェックしてみてください。
- いつから咳をしてる?
- 咳が出る時間帯は?(朝?夜?)
- 咳が出るタイミングは?(興奮した時?安静にしている時も出る?)
- 咳が出る時間は短い?長く続く?
- 乾いた咳?湿った咳?
- お家の環境は?(喫煙者がいる?)
- 混合ワクチンうってる?
- フィラリア予防してる?
動画もあればなお良いです!
犬の咳の中には緊急性の高いものがありますが、それは呼吸困難を伴う咳です!
以下のような症状が見られた場合は、呼吸困難に陥っている可能性があるのでできるだけ早く病院へ行きましょう!
- 安静時なのに呼吸が荒い
- 口を開けて呼吸している
- ぐったりしている
- 歯茎や舌の色が紫色(チアノーゼ)
- 横になれない
お家ですぐにわかる症状としてはこのあたりですね。
危険性が高いかどうかは別として、動物が咳をする時は何らかの異常がある場合がほとんどです。
何かしら病気が隠れている可能性があるので、早めに動物病院を受診しましょう。
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