こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
獣医学部では通常5年生になると、大学付属の動物病院などに出て病院実習を始めます。
これを総合臨床実習といい、ポリクリニカルローテーション、「ポリクリ」 と呼ばれています。
今日は、私が実際に経験したポリクリの内容をお話します。
獣医のポリクリとは
総合臨床実習のことで、ポリクリニカルローテーションの略です。
大学5年生のメインイベントの1つですね。
後期になると、4〜5人のグループに分けられ、
- 内科
- 外科
- 産業動物科
- 腫瘍科
- 病理科
に分かれてそれぞれの診療内容を見学し、学んでいきます。
それぞれ2週間ずつ、合計4ヶ月間ぐらいかけてじっくり実習をおこないます。
私立では人数が多いため、2週間ぐらいで終わると聞きました。
動物病院の診察は、教授や助教授が担当していますが、研修医も担当しています。
研修医と言っても、新卒の若い先生ではなく、他の動物病院で何年か経験を積んだ後に、大学でより専門的な勉強をするために戻ってきた先生です。
学生は、各科の先生の診察についていき、問診や触診の仕方を勉強し、時には補助をしながら学んでいきます。
私の大学の付属動物病院は、2次診療施設としての役割を果たしていたので、ほかの1次動物病院で診断がつかなかった症例や、より高度な検査や治療が必要な症例が紹介されて来院します。
その日の診察は全て予約制、紹介制で、初診、再診さまざまな患者さんが来院します。
その診察を学生である私たちが見学させてもらうので、犬や猫、その飼主さんの協力のもと成り立っている授業なんですね。
内科
内科には他の科に比べると、より幅広い症例が紹介されてきます。
原因不明の食欲不振や長引く下痢、難治性の血液の病気、内分泌疾患…
いろんな症状の患者さんがやってきます。
内科では朝9時から診察が始まり、先生が問診・触診・検査をする様子を見て、診察の流れを見学します。
動物の保定、体重測定、TPR(体温・心拍数・呼吸数)の測定は学生の仕事。
この辺は、獣医っぽくてなんだかワクワクした記憶があります。
症状から考えられる病気をいくつか考え、診断をつけるためにはどんな検査が必要なのかを考えます。
分からないからといって、むやみやたらに検査をやりまくるのはいい診察とは言えません。
そして、必要であれば検査を行います。
血液検査、レントゲン検査、エコー検査などですね。
これらの検査も学生が補助に入ります。動物は人間と違ってじっとしてくれないので、「保定」といって手足をしっかり持って動かないようにしなければいけません。
検査結果を見ながら、自分ならどんな診断をするか、治療をするか、などを考えます。
先生も私たちにいろいろと問題提起をしてくれるので、学生同士でディスカッションしながら考えます。
先生が実際に患者さんに説明するのを聞きながら、答え合わせしていきます。
午前中だけで、先生1人あたり5〜8件ぐらいの診察なので、一般の動物病院より少ないかと思います。
教授たちは他の学年の授業をしたり、自分の研究をしたり忙しいということもあり、研修医が中心となって診察を進めていく大学もあります。
このような感じで午前中が終わります。
内科は手術がないので、基本的に午前中で終了。
入院の患者さんがいれば、ちょこちょこ様子をみながら必要であれば処置をします。
外科
外科も外部からの紹介症例がほとんどなので、整形外科や軟部外科など、一般の動物病院ではあまり見ることのないような手術を見ることができます。
外科は、1人の先生が1日に1件、週に2、3回の手術を執刀します。
午前中に患者さんを預かり、術前検査をしてそのまま手術へ。
学生は、助手に入ったり、器具出しをします。
手の洗い方や術衣の着方、手袋の付け方などを事前に練習しておく必要があります。
就職してから思ったのは、大学の先生だからといって、手術が上手、早いというわけではないということ。
手術の件数は一般の開業医のほうが多いと思うし、手術内容も多岐に渡ります。
大学の教授はある特定の手術に関しては上手いのかもしれませんが、開業の先生は手術症例の幅が広く、何でもできるといった感じです。
腫瘍科
腫瘍科には、1次動物病院で腫瘍が疑われ、放射線治療や外科手術が必要と診断された患者さんが来院します。
麻酔をかけてCT・MRIを撮り、検査だけで終了することもあれば、そのまま手術を行うこともあります。
腫瘍科のメインの仕事は、確定診断をして、その後の治療計画を立てること。
腫瘍によって抗がん剤がいいのか、放射線治療がいいのか、外科手術を組み合わせるのがいいのかが異なるので、その患者さんに合った治療法を考えます。
病状が良くないことが多いので、治療中に亡くなる患者さんが一番多い診療科でもあります。
産業動物科
大動物(主に牛、馬、豚)の農家さんでの診療についていきます。
事前に予約が入るのが普通ですが、緊急の場合は当日連絡で向かうこともあります。
いろんな地域に農家さんがいるので1日に回れるのは多くて2件。
診察は先生がおこないますが、直腸検査や搾乳をさせてもらう機会がありました。
夏の暑い時期や真冬の寒い時期はなかなか大変な仕事だと思いました。
あくまでも産業動物なので、治療方針などの考え方がペットとは違うので、とても勉強になりました。
病理科
病理学研修室がしている仕事を見学します。
病理検査とは、患者さんから手術や内視鏡検査などで採取された臓器や組織から顕微鏡標本を作製し、細胞を調べ、病気の診断をおこなう検査です。
病理学研究室には、付属動物病院や外部の動物病院から、検査の依頼がたくさん入ります。
その病理検査を、病理学研究室の先生や学生がおこなうんですね。
その後の治療方針を決めるために、「腫瘍なのか、腫瘍ではないのか」「腫瘍だとしたら何の腫瘍なのか」を診断する病理検査はとても重要な検査です。
ポリクリでは、送られてきた臓器や組織から切片、標本を作り、顕微鏡で見て、どのような診断を出すか、を考えます。
顕微鏡で、どんな細胞が出ているか、何の腫瘍か、悪性度合いなどさまざまな情報が得られます。
何回かやりましたが…いやー病理診断はむずかしい!
病理診断医はすごいなと思います。
各科の最終日には症例発表
各科の見学は2週間ですが、最終日に、その間にみた患者さんやその病気について自分で調べ、発表します。
症例発表のような感じですね。
教授や研修医の先生と議論を交わすことで、その実習を自分のものにしていきます。
ポリクリも単位があるので、出席と発表内容で評価されることになります。
まとめ:獣医のポリクリは今まで学んできた知識を臨床の現場でどのように生かすかを学ぶ授業
獣医学科のポリクリは大学によって多少やり方が違うと思います。
しかし、目的として、今まで講義や実習で学んだことを、実際臨床の現場に出たときにどのように生かすのかを学ぶこと、というのは共通していると思います。
講義では教科書で学んで覚えることが優先でしたが、ポリクリはとにかく自分で考えてみることが大事。
この病気→こんな症状が出る
という思考でしたが、
ポリクリは、
こんな症状がある→どんな病気が考えられるか
という逆の思考をしなければいけません。まさに臨床の現場での思考と同じです。
今までの講義や実習とは違う授業で、とても楽しく充実した時間になると思います。
教科書だけでは学べない、実際の現場を体験できるので、臨床希望だった私にはとても為になる授業でした。
自分が獣医になったとき、こんな感じで診察進めていけるのかちょっと不安にもなりますが…
逆に、臨床の現場を実際に見て、やっぱり臨床に進むのはやめておこうと決心した人もいましたけどね。笑
では、今日はこのへんで。
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