こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
今日はチンチラの歯のお話。
ウサギと同じように、チンチラの歯科疾患を診察する機会は多いです。
チンチラにとって歯は命?!というぐらい、歯は大事なものです。
歯が原因で死に至ることもあります。
今日はチンチラの歯についてお話しします。
チンチラの歯の特徴とは?
まず知っておきたいのが、げっ歯類に共通した特徴ですが、チンチラの歯は常生歯ということ。
つまり人や犬猫の歯と違って、一生伸び続けるのです。
切歯は1年で10~12cm、1週間で約2mm伸びると言われています。
チンチラやウサギなどの草食動物は、硬い繊維質を食べるために細かくすり潰す必要があります。なので歯は研磨する力を持たないといけません。そのため歯は生涯にわたって継続的に成長するのです。
チンチラの歯は、歯冠部と歯根部から成り立っています。
歯の根っこの部分は根尖(こんせん)といいます。
チンチラの歯は一生伸び続けるため、歯根が開いた状態になっています。(歯肉と歯がしっかりくっついていません。)
歯は歯根膜によって支えられていますが、この歯根膜の支えが、人や犬に比べると弱いのです。
私たち人間の歯がしっかり歯茎に埋まっていて動かないのに対して、チンチラの歯はゆがんだり傾いたりしやすいです。
チンチラの歯は、切歯(前歯)4本、臼歯(奥歯)16本、全部で20本。
切歯のエナメル質は黄色〜オレンジ色をしています。
カルシウムと一緒に、銅や鉄などの色素が取り込まれるためです。
チンチラの歯は一生伸びつづけますが、通常、上の歯と下の歯をすり合わせることによってうまく削れていきます。
チンチラの歯の不正咬合
チンチラの歯科疾患で最も多いのが不正咬合。
不正咬合の症状は?
前述したように、チンチラは上の歯と下の歯をすり合わせて歯を削るのですが、この噛み合わせが悪いと、歯は伸びっぱなしになってしまいます。
これを不正咬合といいます。
切歯にも臼歯にも起こり得ます。
切歯の不正咬合が確認されたら、ほとんどの場合、同時に臼歯にも問題があると思ったほうがいいでしょう。
切歯だけの不正咬合というケースは少ないということですね。
不正咬合の症状として、
- 牧草をうまく食べられない
- やわらかいフードだけを食べるようになる(食の好みの変化)
- よだれ(口周りや手足が汚れる)
- 口内炎、潰瘍
- 歯ぎしり
- 食欲不振
- 糞便が小さく、少なくなる
- 元気がない
歯が悪くなるだけでいろんな症状が出るのね。
一番危ないのは食欲が低下してしまうこと。
不正咬合によって、歯がトゲのようになってしまい、それが頬や舌を傷つけてしまうことで、痛みや潰瘍が生じます。
口の中に痛みや違和感があって食べられなくなってしまいます。
チンチラは常に食べ続けなければいけない動物なので、食欲がなくなると命に関わります。
なので、少しでも早く異常に気づきたいですよね。
臼歯はむずかしいかもしれませんが、切歯の不正咬合は、おうちでも確認できると思います。
くちびるを少しめくってみてください。
歯が変な方向に向いていたり、よだれが多くなっていませんか?
口をあけて奥の臼歯までみることはなかなかできないので、定期的に病院でみてもらいましょう。
不正咬合の原因は?
- 先天性
- 問題行動によるもの
- 外傷性
- 食餌性
- 根尖膿瘍
- 加齢性
先天性
生まれつき、下の歯が上の歯よりも前に出ている状態(アンダーショット)だと、うまく噛み合わず、不正咬合の原因となります。
いわゆる”しゃくれ”ている状態ですね。
問題行動によるもの、外傷性
ケージ、とくに金属製の格子をかじるクセのあるチンチラは、歯根部がゆがんでしまうことがあります。
高いところから落ちたり、ケガも不正咬合の原因となります。
食餌性
野生下のチンチラは、硬くて繊維質が多く、ケイ酸を多く含む植物を中心に、磨耗生が非常に高いものを食べています。
これに対して飼育下のチンチラは、やわらかく、磨耗生の少ない食餌がメインになっているので、咀しゃくや磨耗が十分にできず、とくに臼歯が伸びやすい傾向にあります。
カルシウムが少なく、リンが多いフードも歯がもろくなり、傾く原因となります。
フード中のカルシウムとリンの比率は1:1〜2:1になるようにしましょう。
根尖膿瘍
はじめにも書きましたが、チンチラの歯肉と歯の間の接着は弱いので、歯肉と歯の間から食べカスが入りやすいです。
この食べカスが原因となって根尖部分に細菌感染が起こり、膿瘍(膿のかたまり)をつくってしまいます。
これを根尖膿瘍といいます。
根尖膿瘍が原因で切歯や臼歯の萌出が止まったり、歯槽の部分が緩んでしまうことで、歯が傾き、不正咬合の原因となります。
根尖膿瘍になると不正咬合になり、不正咬合になるとさらに根尖膿瘍が悪化するという悪循環になってしまいます。
図をみるとわかるように、上顎の臼歯の歯根部は眼に近いですよね。
なので、上顎の臼歯の歯根部に根尖膿瘍があると、眼の方にも細菌感染が広がり、治療も困難になってしまいます。
不正咬合の治療法は?
自分で歯を削ることができないので、歯を削って形を整えることが必要になります。
病院ではニッパーやワイヤーカッターを使って歯を削ります。
切歯だけであれば無麻酔で処置できますが、臼歯の処置も同時にする場合は全身麻酔が必要になります。
切歯の場合は3〜4週間に1回、臼歯の場合は1〜数か月に1回、歯切りに通う必要があります。
一生治療が必要になります。
不正咬合の予防法は?
不正咬合を予防するには、適切なフードを与えることが重要なポイントです。
歯を上下に動かして嚙み砕くものではなく、水平方向にこすり合わせて食べられるものが良いです。
歯の磨耗を促すのに一番適しているのが、牧草。
チモシーやアルファルファなどを中心に与えましょう。
かじり木を置いておくのもいいですね。
チンチラの歯周病・虫歯
チンチラの歯科疾患でもう一つ重要なのが、歯周病と虫歯です。
歯周病や虫歯の原因は?
- 臼歯が伸び続けることにより、歯垢が増える
- 繊維質の少ない食事により、唾液の分泌が少ない
- 糖質の過剰摂取
- 年齢
が考えられています。
臼歯が伸び続けると、うまく咀しゃくができず、歯垢がたまりやすくなります。
歯垢には食べカスや細菌がたくさん含まれていて、これが歯周病、そして虫歯の原因となります。
繊維質が少なく、やわらかいフードばかり食べることによって咀しゃく回数が減り、唾液の分泌が少なくなることも原因となります。
そして、おやつや果物などには糖質が多く含まれていて、虫歯の原因菌がこの糖質を利用して酸を作ってしまいます。
酸は歯のカルシウムを溶かしてしまい(脱灰)、虫歯の原因となります。
歯周病・虫歯の治療法は?
歯周病に対しては、口の中を洗浄したり、原因菌に対しての抗生剤を投与します。
ドキシサイクリン、メトロニダゾール、クロラムフェニコール、エンロフロキサシンなどを使いますが、腸炎を起こしたり食欲不振になることがあるので、慎重な投与が必要です。
虫歯に関しては、治療法が確立されていません。
甘いおやつや果物など、糖質の多いものを与えすぎると虫歯の原因となるので控えめにしましょう。
まとめ:チンチラの歯科疾患の根治は困難!しっかり長くつきあっていく必要がある
チンチラの歯科疾患は根治が困難です。
定期的に治療が必要になり、一生付き合っていく必要があります。
治療の目標としては、「食欲が低下しないこと」「自分で食べられるようになること」だと思います。
チンチラの歯が常生歯ということを考えると、歯科疾患はつきものですが、食事管理や事故防止など、おうちでできる予防はしっかりしましょう。
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