こんにちは、獣医師のにわくま(@doubutsu_garden)です。
最近、賃貸物件でペットを飼う家庭が増えてきていますね。
それにともなって、ペット可の賃貸物件も増えてきてはいますが、まだまだ数は少ないです。
他の物件に比べて家賃が高く設定されていることも多いです。
さらに、ペット可とはいっても、種類、大きさ、頭数、ワクチンの有無など、物件によってクリアすべき条件はさまざまです。
こうなると、ペットと暮らす理想的な物件を探すのは大変になります。
そこで、ペット不可の賃貸物件で大家さんに内緒でペットを飼育し、後々トラブルになることも多いです。
実際、私の同級生にもいました。
そこで今日は、ペット不可の賃貸物件でペットを飼育したときに起こる問題点について考えてみたいと思います。
ペット可、不可関係なく、賃貸物件でペットを飼う上で知っておきたいこと・注意点を事例を交えて紹介します。
賃貸物件でのペット飼育から起こる問題
まず、賃貸でペットを飼うときに起こる問題点として
- 床や壁を引っかいた、噛んでしまった
- 床や壁に排泄物のシミやにおいがついてしまった
- 部屋全体に動物独特のにおいがついてしまった
などがあげられます。
これは、退去時に大きな問題となります。
それは、ペットが原因で部屋が汚れたり、傷がついたりしたことについて、大家さんから「原状回復」を求められることがあるということです。
そこで今日は、「ペット飼育と賃貸物件の原状回復費用をめぐる問題」
について考えていきたいと思います。
賃貸物件退去時の一般的な清算
まずは、原状回復請求を含め、賃貸物件を退去する時の大まかな法律関係をみていきましょう。
そもそも「原状回復」とは、
「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く)・・・を原状に復する」こと(平成32年4月1日施行民法621条参照)
と定義されていて、賃借人が費用を出して行う義務があります。
つまり、建物を借りたときの状態に戻すことではなく、通常損耗以外の劣化について原状回復の義務を負うということですね。
入居時に支払う敷金は、この原状回復の費用を見込んで設定されていることがあり、
一般的に、退去する場合、借主は、入居時に支払った敷金を貸主から返してもらう権利があります。
一方、貸主は、これまでの未払家賃や原状回復費用を借主に請求することができます。
そして、返してもらう敷金額と支払わなければならない原状回復費用等は、通常、差し引きされ、
敷金の金額-原状回復費用等=残額
が借主に返ってきます。
原状回復費用が敷金額より多ければ、貸主は借主に追加の費用を請求をするでしょう。
では、ペットを飼育していた場合、この「原状回復費用」はどうなるのでしょうか。
そこで、ペットの臭い、ひっかき傷や排泄物の影響を理由に、原状回復費用請求の裁判となった事例を見てみましょう。
事例紹介(東京地裁平成27年11月25日判決)
事件の要約
賃貸人である原告が、本件居室の賃貸借契約では、ペットの飼育が禁じられていたにもかかわらず、賃借人である被告が本件居室でペットを飼育したため、ペット飼育の発覚後、被告との間で、ペット飼育によるキズ・破損・汚損・臭い・しみ等の原状回復に要した費用は全額被告の負担とする旨合意したなどと主張し,上記賃貸借契約及び上記合意に基づき,被告に対し,原状回復費用等合計183万2240円を請求した。
この事件では、被告(住人)が、ペット飼育禁止の物件にもかかわらず、原告(大家さん)に内緒でペットを飼育していました。
隣人からの問い合わせが相次ぎ、大家さんが住人に問いつめると、犬を飼っていることを認めました。
大家さんと住人の間で話し合いをしたのち、次のような契約を結びました。
原告は、被告との間で、本件居室の賃貸借に関して次の内容の合意をした。
1条 平成25年4月分賃料より現賃料15万円から16万円に変更とする。
2条 本件賃貸借契約を解約した際,ペット飼育したことによるキズ・破損・汚損・
臭い・しみ等の原状回復に必要な修繕工事については、原告指定の業者にて行い、その費用は全額被告負担とする。
3条 本件マンションの管理組合が定めるペット飼育に関する管理規約・使用細則を遵守することとする。
4条 現在飼育しているペット(犬1匹)以外の飼育はしないこととする。
5条 その他については本件賃貸借契約に従うものとする。
そしてマンション退去時。
大家さんが部屋を確認したところ、台所、和室、リビング、玄関、バルコニーに、入居時にはなかった傷、破損、汚損、しみが見られる状態でした。
さらに部屋全体に犬の臭いがしみついているような状態でした。
そこで、大家さんは住人に対して、原状回復費用等として、183万2240円の支払いを求めました。
ところが、住人からの返答がなかったので、裁判となりました。
原告の主張
本件居室については、ペット飼育禁止条項に反して犬の飼育が行われたことによるキズや破損、汚損、臭い等のほか,通常の使用によって生ずる自然損耗を超える損耗や汚損があったため、原状回復工事が必要になったところ、これに要する費用は少なくとも合計137万8177円に上る。したがって、被告は、本件賃貸借契約及び本件合意に基づき、原告に対して上記金員を支払う義務を負う。
大家さんは、ペットによる破損等の原状回復に必要な費用は、全額住人が負担するとの合意があったとして、この支払いを求めました。
被告の主張
原告の主張に対し、被告は次のように主張しました。
原告が指摘するキズや破損、汚損、臭い等は、その多くが通常損耗や経年劣化の範囲内のものであり、原告が主張するような大規模な原状回復工事は必要ではない。
住人は、「犬はバルコニーで飼育しており、キズや破損、汚損、臭い等はペットによるものではない。ほとんどが通常損耗や経年劣化の範囲内のもの。」
そして、敷金の範囲内でおさまるだろうと主張しました。
裁判所の判断
そして、裁判所は次のように判断しました。
賃貸人と賃借人は、「本件賃貸借契約を解約した際、ペット飼育したことによるキズ・破損・汚損・臭い・しみ等の原状回復に必要な修繕工事については、原告指定の業者にて行い、その費用は全額被告負担とする。」という契約を締結している。
よって、被告は、通常の使用によって生じる自然損耗を超える損耗・汚損に加え、本件居室においてペットを飼育したことによって生じたキズや破損、汚損、臭い、しみ等についても、原状回復義務を負うというべきである。
また、飼育によるものかどうかは定かではないにせよ、通常の使用によって生じる自然損耗を超える損耗・汚損に当たるというべきである。
つまり、
- ペットを飼育したことによって生じたキズや破損、汚損、臭い、しみ等
- 飼育によるものかどうかは定かでないにせよ、通常損耗、経年劣化を超える損耗・汚損
この2点について原状回復費用を負担すべきと判断したのです。
結局、住人は、裁判所が認めた原状回復費用90万円余りから,敷金30万円を差し引いた60万円余りの支払いを命じられました。
この事件のポイント
原状回復の責任の範囲
この裁判では、
①ペットを飼育したことによって生じたキズや破損、汚損、臭い、しみ等
②通常の使用によって生じた自然損耗(通常損耗)を超える損耗・汚損
について原状回復費用を求められました。
①については、ペットによるものなのかどうかを判断するのは難しいです。
爪あとや噛みあとから総合的に判断します。
②について、通常損耗とは“普通に使っていれば起こる小さな損傷や経年劣化と言えるもの”のことをいいます。
通常損耗を超えるものは原状回復が求められるということです。
つまり、①のペット飼育によるキズ等は、②の通常損耗を超えるので、ペットによるものかどうか判断できなくても、原状回復が求められることは明らかですね。
したがって、原状回復を求められないようにするには、ペットによるひっかきキズや噛みあと、体臭、排泄物の取り扱いに十分注意する必要があります。
ペット可の賃貸物件
ペット可の物件だからといって、ペットが原因のキズや破損、汚損、臭い、しみ等が許されるということではありません。
「ペット可の物件」というのは、あくまでも、「ペットを飼っていても、それを理由に退去を求められることはない」ということです。
しかし、ペット可の物件は周辺の他の物件より家賃や敷金が明らかに高くなっていることもあります。
家賃や敷金に「ペットを原因とする原状回復費用を含んでいる」とすれば、ペットによるキズ等の原状回復の費用負担を減額することができる可能性があります。
ペット可の賃貸物件に入居するときに、このような原状回復費用負担の特約がないか、賃貸契約書を確認してみましょう。
まとめ
- ぺットを賃貸物件で飼うときは、きちんと賃貸人に申告する
- ぺット飼育可だからといって、ぺットによる傷や汚れが許されるわけではない
- 退去時の「原状回復」の責任の範囲を確認する
- 敷金が異様に高い場合は、原状回復費用も含まれているのか確認する
- 部屋、特に壁や床の傷・汚れには十分注意する
むずかしいことかもしれませんが、ペットと楽しく暮らすには重要なことです。
賃貸人または仲介業者によく確認しましょう。
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