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そもそも下痢ってなに?
下痢とは、「便の水分が異常に増えた状態」をいいます。
口から入った食べ物は、胃で消化されながら通過します。
つづいて小腸に入り、栄養分が吸収されます。そして大腸では残った水分が吸収されます。
腸は水分の分泌・吸収を繰り返し、便の水分量が一定になるように調節しています。
何らかの原因でこのバランスが崩れると便が硬くなったりやわらかくなったりします。
引用:国立がん研究センター
人での定義ですが、犬でも同様です。
下痢とひとくちにいっても水のような「水様便」、形はあるがやわらかい「軟便」、鮮血の混じった「鮮血便」、黒色の血液が混じった「メレナ」などさまざまな状態があります。
犬の下痢には大腸性、小腸性がある
人間と同じように犬にも大腸、小腸があり、下痢の原因はこのどちらかにあります。
どちらに異常があるかによって大腸性下痢、小腸性下痢にわけられます。
大腸性下痢の特徴
- 1回の便の量は普段と同じか少なめ
- 便の回数はものすごく増える
- しぶり(排便しようとするが出ない)がみられる
- 粘液や鮮血が混じる
- 食欲・体重は変わらない
とにかく頻繁に排便体勢をとるようになるのが大腸性下痢の特徴です。
小腸性下痢の特徴
- 1回の便の量がものすごく増える
- 便の回数はあまり変わらない
- 脂肪便(消化不良の便)が出る
- 食欲は変わらないか増加する
- 体重が減ってやせる
- メレナがみられることがある
小腸は栄養を吸収する場所なので、小腸性下痢が長引くとうまく栄養が吸収できず、食欲があるにも関わらず体重がどんどん減っていくのが特徴です。
どうですか?
どちらの下痢にあてはまりそうですか?
大腸性か小腸性かを判別することがなぜ重要なのでしょう?
それは、大腸性下痢と小腸下痢では、鑑別リストや治療方針が違ってくるからです!
なので、獣医師にとって大腸性か小腸性かどうかは非常に重要な情報です!
病院へ行ったときに、便の量や回数などの情報をくわしく獣医師に伝えられるようによく観察しておきましょう。
犬の下痢の原因は?
下痢の原因はたくさんあります。
危険度の低いものと高いものにわけてみます。
危険度が低い下痢の原因
環境の変化やストレス
ペットホテル、トリミング、来客、引っ越し、季節の変わり目、子どもが生まれた、新しい動物が増えた、など。
留守番が長い、飼い主さんにかまってもらえない、など不安や恐怖が原因になることもあります。
食餌性
一気に大量のフードを食べた、脂っぽい物を食べた、など。
乳糖(ラクトース)不耐性の犬が牛乳やヨーグルトを食べた場合も下痢をします。
危険度が高い下痢の原因
異物誤食
ゴミ箱をあさっていて腐ったものを食べた、散歩中に草や植物を食べた、など。
また、玉ねぎやチョコレートなど中毒を起こす食べ物や、人間用の薬などの誤食も危険です。
約1時間以内であれば、食べたものを吐かせるなどの処置ができます。
寄生虫性
回虫、ジアルジア、トリコモナス、コクシジウム、鉤虫、糞線虫、など。
ウイルス性
パルボウイルス、コロナウイルスなど。
パルボウイルスはペットショップやブリーダーのところで集団感染している可能性があり、仔犬が下痢をしていたら要注意。
細菌性
カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌など。
一般的な糞便検査で診断するのはむずかしく、遺伝子検査が必要になります。
胃腸疾患
炎症性腸疾患、リンパ管拡張症、潰瘍性大腸炎、大腸炎症性ポリープなど。
肝臓・膵臓疾患
肝不全、膵炎、膵外分泌不全など。
消化器以外の疾患
副腎皮質機能低下症(アジソン病)、糖尿病、腎疾患、子宮蓄膿症など。
腫瘍
とくに消化管に腫瘍ができた場合に下痢をすることがあります。
下痢ではなく、鮮血が付いていたり、メレナがでたりということもあります。
食物アレルギー
フードが合っていない、フードに含まれる何らかの成分にアレルギーを起こしている、など。
一時的なものではないので、長期的に付き合っていかなければいけません。
大腸性下痢、小腸性下痢を判別することによって、原因をしぼっていくことができます。
下痢の診断法は?
下痢の犬が来院したとき、獣医師はどのように診察するのでしょうか?
問診
まずは次のポイントに注意しながら問診をしていきます。
- 急性か?慢性か?
- 小腸性下痢か?大腸性下痢か?
- 食事内容は適切か?
- 食事の変更異物、薬物、毒物摂取の可能性はないか?
- 下痢以外の症状がないか?
- 過去の病歴はあるか?
身体検査
体重減少(脂肪や筋肉量の減少)や腹痛、腹水、腹腔内腫瘤などに注意しながら触診をします。
脱水や発熱がないかも確認します。
糞便検査
必ずおこなうべき検査です。
新鮮な便で検査したいので、できれば病院で便をとるのがいいでしょう。
肉眼で形や色、血が混ざっていないかをみて、顕微鏡で寄生虫や細菌の検査をします。
寄生虫の検出率は高くないので、今日は検出されなくても、別の日に検出されたということはよくあります。
別の日に最低3回は検査したほうがいいですね。
今回下痢をしたのが初めてで、犬も元気そうであれば、脱水の補正や食事療法、整腸剤で数日様子をみます。
このような治療で治らない場合は、次の検査をおこないます。
- 血液検査
- レントゲン検査
- エコー検査
- 内視鏡検査
下痢が慢性化しているのであれば、できるだけ早くこれらの検査をおこなうべきです。
いつ病院へ連れていくべき?
では、どのタイミングで病院へ連れていけばいいのでしょうか?
もう少し様子をみてもいい場合
- 元気・食欲があるとき
- 1〜2日で下痢がおさまるとき
- 下痢以外の症状がみられないとき
- 環境の変化や食餌の変更など、明らかな原因に心当たりがあるとき
すぐに病院へ連れていくべき
- 元気・食欲が低下しているとき
- 3日以上下痢が続いているとき
- 便の色や形がいつもと明らかに異なるとき
- 嘔吐など下痢以外の症状がみられるとき
- 仔犬(生後3ヶ月前後)、高齢犬
もちろんあくまで目安であり、必ずしも全てあてはまるわけではありません。
すぐに病院へ行ける場合は連れていったほうがいいでしょう。
犬が下痢をしたときお家でできる対処法はある?気をつけることは?
すぐに病院へ行けない場合の対処法をいくつかあげてみます。
半日程度、絶食をおこなう(成犬の場合)
下痢のときは消化管が過敏になり、食べ物が通るだけで刺激になります。
半日から1日ほど、胃腸を休ませるために絶食をおこないます。
下痢をすると水分が失われるので、水は脱水を防ぐためにいつもどおり与えてください。(冷たいとお腹を冷やすので、ぬるま湯がいいです)
人間用の経口補水液もいいですね。(与えすぎは注意)
絶食後は消化のいいもの(ふやかしたフードなど)を少量ずつ与えます。
嘔吐がある場合は、何も与えず病院へ連れていきましょう。
ストレスとなっているものを取り除く
心当たりのある場合はストレスの原因となっているものを改善してみましょう。
下痢止めは飲ませないで!
下痢は止めたほうがいい場合と、止めてはいけない場合があります。
とくに感染症の場合は細菌やウイルスを体外へ排出するのを遅らせてしまいます。
飼い主さん自身で判断せず、獣医師の指示を聞きましょう。

まとめ:犬の下痢の原因はさまざま。様子をみてもいい場合もあるが、なるべく早く病院へ。
いかがでしたか?
犬の下痢は、私が病院で診察していて最もよく遭遇する症状の一つで、そのほとんどが一過性の下痢で、2〜3日で治ります。
しかし中には、元気・食欲はあっても調べてみると大きな病気が隠れていたということが何度もありました。
下痢をしていた場合はなるべく早く病院へ連れていきましょう。
そして、診察をするうえで、便の状態など飼い主さんからの情報はとても重要です!
異常にいち早く気づくためにも、普段からお家での便の状態や排便の様子などをよく観察しましょう。